（８４５）フュンク・ウレ数列とシリウス

　マヤでは「神聖暦ツォルキン」（１３×２０の２６０日周期）、「農耕暦ハアブ」（１８×２０＋５の３６５日周期）、「金星暦」（５８４日）などたくさんの暦を併用していたが、古代エジプトでも３つの暦を同時に用いていた。すなわち２９日と３０日を交互に繰り返す「太陰暦」と、３６０日に５日の特別日を加えた「シビル暦」、そしてシリウス周期に合わせた１年３６５.２５日の「ソティス暦」である。シビル暦は４年ごとに１日ずつずれていき、シビル暦の１４６０年がソディス暦の１４６１年と同期する。

　ところでこのエジプトのシビル暦の内部構造は３０日×１２か月＋５日の３６５日であり、マヤのハアブ暦の方は２０日×１８か月＋５日の３６５日である。また中国もシビル暦と同じ構造の３６５日であった。この閏年を念頭に置かない、もしくは一定期間の後にまとめて処理する１年＝３６５日の暦は、実は２５年で月の３０９朔望周期とぴったり同期するのである。つまり２５×３６５＝９１２５日だが、これを３０９で割ると９１２５／３０９＝２０．５３０７日となる。現代の精密な計算による月の朔望周期は２９．５３０９日であり、この数値間の誤差は驚くことにわずか０．０００２日に過ぎない。

　さてここで話は再び黄金分割比（もしくはフィボナッチ数列の系）へと戻ることになる。前節の表＜フュンク・ウレの数列＞をもう一度見直してみよう。この２５年と等しい月の朔望周期の数＜３０９＞の２倍は６１８だが、この数値は小さい方の黄金分割比φ’、もしくは黄金分割比の逆数＜φ’＝１／φ（＝０．６１８…）＞の１０００倍にほぼ等しい。ということはすなわち５０年は月の６１８朔望周期と等しいということだ。

　古代の資料によれば、エジプト人が夜空に輝くシリウス星を「もう１つの大きい方の太陽」と見なしていたことが分かっている。そして現在の地球からは肉眼で観測できないシリウスの伴星Ｂの１公転周期は地球の５０年であることが、現代の天文学では分かっている。アフリカのドゴン族がポ・トロと呼ぶ、この非常に高密度で小さい星を現在では一般にデジタリアと呼んでいる。ところで太陽暦・太陰暦・金星暦・シリウス暦という４つの暦を用いていたこのドゴン族は、遥か昔からこの目には見えない星デジタリアの存在はおろか、その公転周期が５０年であることも知っていた。

　このペンターブ数列の第８項（初項と第２項をカウントしなければ第６項）は７３であり、ケルト数列はその４倍になっているが、５倍の数列を想定するとその数は３６５になる。またフュンク・ウレの数列の第１２項（同じく第１０項）はφ²の１０００倍であった。そして１０：１２＝５：６といえば、５芒星と６芒星の関係とともに５π≒６φ²という関係式を思い出させられる。この式はそのままφ²＝（５／６）πと変形できるから、このフュンク・ウレの数列の第１２項（もしくは新しい第１０項）において１０進法と交差していると共に、第１４項（もしくは新しい第１２項）においてπとも交差していると見ることができる。それともう１つ、古代テオティワカンや第１期ストーンヘンジなどの建築基本単位の１つ８３センチメートルと、現代のメートル法の基本単位１メートルとの比率、５：６も想起しておこう。

　また６０進法が最初から存在していたシュメールでは、この５０年を２５と２５というように２重に表現をしていたことが知られている。デジタリアの公転周期５０年を非常に重要視していたドゴン族は、６０という数を宇宙の胎盤と考えており、６０年毎に盛大な祝いをする。ストーンヘンジには周辺に掘られた５６基のオーブリー穴の内側に、２重の同心円状に６０基の穴（Ｙ穴とＺ穴と呼ばれている）がある。エジプトにもオリシスと関係づけられた６０年ごとの祝いの期間があった。なお６０進法に関しては後の（８５２）節に詳しく述べてある。また５０に関しても、プラトン立体の全ての点（もしくは面）の総和の５０、日本語の５０音構造、さらには「エジプトの３角形」とも呼ばれる辺長比３：４：５の３直角３角形つの辺の平方の和が（９＋１６＋２５＝）５０であることなども連想される。（もちろんこの３辺の積３×４×５＝６０であることも忘れてはなるまい。）現代の人間の方が当時の人たちよりも賢いという前提に立ち、これらの符合はただの偶然の一致に過ぎないとかたずけてしまうのもまたかなり強引な断定に思われる。

　ところでこの黄金比の数列が１０００倍になっているフュンク・ウレの数列の上で初めて気が付いたのだが、その第１４項２６１８は、ピアノの左端から４０番目のＣの音、ハ長調のドの平均律の振動数２６１．６３Ｈｚをも連想させる。このハ長調のドの振動周波数は黄金比の２乗のほぼ１００倍に当たる数値となっている。なおこの音は声楽のバスからソプラノまで男女６種類のパートのどの声域にも重なっている音域である。そして何より私たちが小学校で最初の音楽教育を受ける時、ト音記号のついた５線譜の一段下に土星のような形で、もしくはマヤの２０を表す数記文字に似た形で表すドの音なのである。

　月は地球を公転し、地球は太陽を公転し、そして太陽は銀河系の中心を回転している。そして私たちの銀河系の外にはさまざまな銀河が存在している…。私たちの宇宙の階層構造のイメージはこんな感じだろうか。ところで数的比率で考えると、私たちの太陽系が直接銀河中心を回っているというのは、月が太陽の周りを回っているというオーダーに近い。確かに月は太陽をも回っているのだが、その前に地球を回っている。銀河中心を回っている私たちの太陽もまた、銀河のどこかにその公転の中心があり、その中心もまた銀河系の中心を回っていると考えることは荒唐無稽なことではない。

　１９１９年、シャリエはアルゴ座の方向数百光年のところに中心を持つ、直径２０００光年のローカルシステムを見つけたという。その中心からわずか１光年のところに、太陽の２０倍の明るさのシリウスがある。しかしただそのようなシステムの存在を主張してみたところで、実際のデータがなければ万民の納得いく世界観ではない。数的比率で見てみると地球の直径と太陽系の直径の比は１：１００００００であり、〈地球−太陽〉間と〈太陽−シリウス〉間の距離の比も１：１００００００である。太陽系の直径と銀河系円盤の直径の比が約１：４００００００００であることから考えても、かなりいいセンをいっている。これだけではなんの証明にもならないが、現在では太陽系はシリウスを中心に回転しながら、銀河中心を回転していると真剣に考えている人も一部にいる。またそれとは別に、太陽の１０万倍の明るさを持ち、太陽と同じ軌道を通っているカノープスもその中心候補の１つである。このカノープスは太陽系から６２５光年の距離にある。この６２５という数がマヤの神聖暦ツォルキンの２６０と農耕暦３６５の和であることは偶然だろうか。