(KIN222)#828

　　　　（８２８）手…最古の万能計算機

　私たちはすでに指２進法によって片手で３１まで、両手を用いれば１０２３までの数を数えることができることを知っている。また単純に指を１本ずつ折ることで１０まで数えられることを知らない人間はいないだろう。この生まれつき備わっている計算機、私たちの手の上に見る１０進法と２進法だ。携帯用ノートパソコンは指でキーボードを叩いて入力し、モニター画面上にその出力されたものを見る。しかしこの手のひら計算機は入力も入力されるキーボードも出力されるモニターも、そしてそれを携帯するものもすべて手そのものである。この手のひら計算機はこのほかにも古くから１２進法、２８の月の暦、６０進法などの計算や記憶や伝達のためにも用いられていた。それをここで見ておくことは、「数の構造」を見る「人間精神の構造」が「数の構造」を内包しているとして、精神の顕現である肉体に人間自身の記憶を見ることにもつながるだろう。見る者は見られる。

　まずは片手でできる１２までの数え方。親指以外の４本の指の関節を使うもので、上の図右のように１から１２までの数に対応する節を、親指の先で触れることで表す方法である。この数え方がシュメールやバビロニアなどで１日を１２等分したり、黄道を１２に区分したり、１年を１２ヶ月にするなどの計量法に重要な役割を与えたのではないかという考え方がある。またこれを両手で繰り返すと２４までが数えられるが、エジプトで１昼夜を明るい１２と暗い１２とに分割（つまり１日２４時間）する原因になったとする学者もいる。このような１２進法の数え片はインドやインドシナ、パキスタン、アフガン、イラン、イラク、シリア、エジプトなどで知られている。

　２４までの数の数え方は単純に１２＋１２だが、これは片手で５本の指を両手で５＋５とした最もシンプルな１０の数え方と対比できる。しかし右手の５本の指を全部折りきった時、左手の１本の指を１本折るという対応の仕方をすれば、５×５で２５までの数を５進法的に数えることができる。今日でもイラク、トルコ、インド、インドシナなどでは、右手の１２の節がいっぱいになったら左手の指を１本折るという方法で１２×５＝６０までを数える６０進法が用いられている。左手の指はそれぞれ１２、２４、３６、４８、６０に対応することになる（上の図左）。しかしなにも左手は指の５だけではなく、１２の節としても関係を対応づけられるのだがら、右手で１２まできたら左手の１に対応する節をおさえ、２４まできたら２に対応する節をおさえ…というようにすれば、１２×１２で１４４までの数を数えることが可能である。

　単純に前述の１２の節を世界を満杯にする１２と対応させれば、それを反転させる１３は１２までを数えていた親指そのものと考えることができるだろう。親指は他の４本の指の節のようには自分自身に触れることができないが、１３を表す時は１３本の指全てを握ってにぎりこぶしを作れば良いだろう。１３といえば１３の月の暦がすぐに思い出される。１３の月の内部構造は１ヶ月が２８日だった。片手に１２個ある４本の指の節のほかに親指自身にも２つの節があるので、これらを足せば下の図左のように両手で２８日を表すことができる。これは私が初めて１３の月の暦を知った時、手のひらを見ながら１３ヶ月および２８日を対応させてみたものだが、後になってインド、中国、インドシナでも同じようにして２８の数え方があったことを知った。ジョルジュ・イフラーの報告によると、中国の広東州では女性が整理周期を数える必要から、両手の２８の節の１つ１つに細紐を結んでいく習慣があったという。

　また７世紀のアイルランドにおいて、アングロ・サクソンの修道士ベーダは、自著の中でこれと同様の方法を用いてユリウス暦の曜日と日月の一致の２８年周期を示した。こちらの方は私が禅寺でやったアルバイト中に見出した周期と同じだが、これはキリスト教徒にとって復活祭の日取りを決めるために特に重要性を持っていた。さらにこの修道士ベーダは１９年で同じ日付の同じ時刻に月が同じ位置に昇るメトン周期を片手で表すために、片手の指の関節及び指先の爪を用いて上図右のように対応させて表している。このほかにもイスラム教徒がアッラーの９９の徳相を数え上げるためのものや、中国で用いられていた片手だけで１０００００まで数えられる方法などなど、世界各地で指を用いた様々な数の数え方がある。

　しかしそれら網羅することがここでの目的ではない。数を手で数え始めたのは古代エジプトだといわれているが、数を数えるほかにも指は様々なものごとを表したり、感情の表出にも用いられてきた。夢中になってものごとを説明しようとしている時、私たちの両手は当人の意志とは別にさまざまな動きをみせる。数が文字に対応させられ、やがて文字や言葉を表すことで、声を出さずに意志の疎通をすることもできるようになった。仲間内だけの秘密の会話から現在の手話のように広くコミュニケーションできるものまでさまざまだ。密教では印を結ぶことによって特殊な精神状態に移行することもできるという。日本語も５つの母音と１３の子音、もしくは拗音もいれた８つの母音系と１３の子音系を両手で組み合わせれば、全ての音を表現することができるだろう。手の形が人間精神の表出であり、またその手の形を見て人間精神が形成されていく。自分の手をじっと見詰め直すと、それが精神を映す鏡に見えてくるかもしれない。そして次元界面を透過する光は数…。