「The Standard Club」Piano Dance:2
より借用・加工。
■１■いつまでも１つの調に留まっていると音楽は単調になる。そこでたびたびの転調によってそれを避け、再び本来の調に戻るという技巧を用いることになる。ところがスムーズに転調を済ませるためにはコンマだけ新しい音を設けたり、ＧとＦの間にＦis音を設けたりとかなり煩雑な問題が生起してくる。
■２■私たちの耳はある基音からオクターブ音までの間に13個以上の楽音の差異を聞き分けることができる。ＣからＦまでの７つの調を自由に使用するためには、実際オクタープ内に18個の音が必要となる。また嬰調や変調にも転調しようとすれば、さらに多くの音が必要になってくる。
■３■理論上最初に平均律を見出していたのは中国人だった。しかし等分平均律は盲目の音楽理論家フランシスコ・サリナスにより、1577年に初めて具体的に記述されている。人の歌声、弦楽器、多くの管楽器は音の数に限度はないが、ピアノやオルガン等では各音に対応するレバーや鍵盤が必要になってくる。
「TMI:
Gioseffo Zarlino, Istitutioni harmoniche ? Critical
edition」より借用・加工
■４■そしてそれは楽器の構造上全てに対応しきれないという非常に困難な問題へと発展する。様々な音階システムや音楽理論家たちは、正しく調律するには19分音階、31分音階、44分音階、53分音階等を主張している。これらも全音や半音の隔たりが聴覚上等しいという点において、平均律になっているのだ。
■５■そこでオクターブ以外の純協和音程を均等にひずませて、わずかな差異の２つの音の機能を果たしうるような１つの音を用いるという折衷的な解決が企てられた。コンマは非常に小さい音程であり、無視してもほとんど支障がないと考えて、オクターブ内の音を18個から12個にまで減らすことにしたのだ。
■６■ハーモニーを保って演奏できる和音の数を増やすという目的のために、演奏できる和音の種類を減らしたのである。この鍵盤楽器の機械的構造の制約のために、調のニュアンスを犠牲にして自由な転調の可能性を得る折衷方法を｢平均律｣という。｢平均律｣の同じ音程はどれも同じだけ端を削ぎ落としてある。
■７■純正５度は<３：２>だったが、平均率ではこれが<2.996…：２>になっている。誤差は0.004ほどであり、この0.4％弱のひずみを気にするような人間はほとんどいないだろう。あまりよい譬えではないが、棺桶に合わせて死者の足を20センチメートルも切り取れば、その行為が目に余って私たちは不快がる。
■８■しかし２メートルの亡骸を上下方向に８ミリメートルほど圧縮して、無理やり押し込んでも、おそらく誰も気づかない。またこれは月の神と賭けをして勝ち、360日の１日１日からそれぞれ１／72ずつを掠め取って１年を365日にした、あのエジプトの智慧の神トートをもどこか連想させる方法ではないか。
■９■この等分平均律では、オクターブを12個の等しい間隔に分割する方式だ。それぞれが平均化された半音だから、２つの半音を合わせるとちょうど１つの全音ができる。また全音がすべて同じ大きさの幅となったので、12個の５度音程を作ることと、７個のオクターブを作ることとがまったく同じになった。
■10■各調の間に誤差が全くなくなってしまったために、完全に自由な転調が可能になった。しかしその結果犠牲になったものは何だろう？まずこの音階には８度以外に純正な音程は全くなくなってしまった。４度はほんの僅か幅が広く､５度はその分だけ幅が狭い。３度は僅かに幅が広く､６度も少しだけ広い。
■11■この誤差はなめらかさと調和を現実的に犠牲にしていることは間違いない。このことに関してはあれこれと数値や比率をあげて論ずるよりも、シンセサイザーやパーソナルコンピュータの音響システムにこれらの振動数を打ち込んでみて音を出し、その違いを実際に体感してみる方が分かりやすいだろう。
■12■各音程を加減していってできた音程の階層は、バランスのとれたハーモニーに極似したものになっている。これは決して不協和音の塊でもかき混ぜられた音たちでもない。衰退するといわれつつも実際に150年以上に渡って西洋音楽を支配し続け、さらに当分主役を張り続けそうな音律システムなのである。
「withnews」より借用・加工
■13■この平均律がなぜこれほど広まり世界中のミュージックシーンを席捲したのだろう。いくらカオス理論やホメオパシーが微細な差異がマクロにおいてかなり異なる結果を生むと強調しているとはいえ、この僅かコンマ数％のひずみが音楽全体にどれほどの影響を与え得るのか、もしくは与え得たのだろう？
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on 20240220 Tuesday
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