■１■「音のない世界に行きたい」と知人の現代音楽家が言った。街を歩けば騒がしい物売りの声に小突き回され、店に入れば時の隙間を埋め尽くすようにＢＧＭが垂れ流されている。不細工な機械音からがさつな脳波まで、人間の発する様々なノイズで溢れかえっているこの現代社会に辟易しての言葉だった。
■２■街中が耐えられないのなら田舎に行けば良いという類の問題ではない。衛星軌道から見れば日本列島が人工の光で終日輝いているように、今や地球の大気も様々な人工音が満ち溢れている。もちろん人間の生み出す音が全て悪いと言うことではないが、調和なき人工音だけでは未来を開くことは不可能だ。
■３■明鏡止水。自らの心の水面を静めることで、外の雑音に捉われることなく、内面から立ち上がる自分自身の音を聞くことができる。それにしっかり耳を傾け、外に響く様々な音との協和・共鳴を試み、そこに調和を見出す時初めて私たちは本当の音を知り、そしてその音そのものとなることができるのだ。
■４■私たちは特定周波数のパルスを聞くと、同じ周波数の脳波が発生する。地球の固有振動数に同期して人間の脳波のα波帯域も揺らぐので、無自覚な非人間的行為が多発すると主張する者もいる。しかしこの変容特性を受動的に浴びるだけでなく、能動的に意識の変容にも用いることも可能なのではないか。
■５■通常意識から変性意識に至る方法は大きく２つのカテゴリーに分けられる。いわゆるトップダウン方式とボトムアップ方式だ。前者は自律系の鎮静部分を利用し、後者は自律系の覚醒部分を利用して超越する。だがこの双方が極限まで行くと、この相異した２者が相乗効果で逆説的な第３の状態が生じる。
■６■それぞれ無関係に生起する遠隔透視や瞬間移動、アブダクション、クンダリーニ暴走、ドッペルゲンガー現象、金縛り、明晰夢、生霊・死霊、体外離脱や臨死体験、シャーマニズム、チャネリング現象などの異能力や超常現象を、今現在は連続した世界観の中に統合的に解釈し直すことが要請されている。
■７■それはこれまでの人間型ゲシュタルトを超えて続く様々な未知の可能性を内包している。意識焦点のシフトにより異次元へと向かう旅なのか、単なる幻覚や独善的な思い込みなのかという二択的スタンスからではなく、その両方を視野に収めつつさらにその先を自ら見詰め行く包括的な視座が必要となる。
■８■世界は全て｢波動｣であるというちょっとがさつにも用いられる表現もあるが、世界は｢音｣からできているとも表現できる。生命は振動する。振動は時間を要する。静止しない音とは生命の時間を内包している。私たちは地球の音､太陽系の音､銀河の音の中で生きているだけでなく、その音そのものでもある。
■９■秩序と理想の静的な完全美の世界の中で、未来を切り開く新しい｢音｣をただ待っていても、既知のみの世界からは新しい音は聞こえては来ない。自ら真摯なる問いを発し、その答を探求しゆく過程でその「おとずれ」と出会い、共鳴して１つになった先に、外でなく自らの内にも未来の音は広がるだろう。
■10■動的で不確定な現実の世界のずれとその統合の過程にこそ、より多くの豊かさが生起する。音というものの意味と価値をこの身を通して変化変容させ、新しい音そのものになっていくという能動的未来。今こそ森の中で静かに倒れる木の音を聞く耳を持ち、そしてその音そのものになる時ではなかろうか。
rewitten
on 20240210 Saturday
|
