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■１■AIにロールシャッハテストを見せたらどう反応するだろう？ロールシャッハテストとは、1920年代にスイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハによって考案されたあれだ。紙にインクを垂らし、それを２つ折りにして開いた時に現れるランダムな模様が何に見えるかで、被験者の思考や意識を分析する。

■２■人間の心中には人間特有の、そしてまた個々人特有の内面的な葛藤が沢山ある、しかしAIは明確な論理で機能するが、人間の思考や意思決定に大きく作用する内面的葛藤を再現できない。敢えてバイアスを掛ければ、それなりに歪んだ答を出すが、まだ単に過去に学習した内容を暗唱しているに過ぎない。

■３■ではロールシャッハテストが人間の優位性を示しているのかというと、もちろんそうではないだろう。個人的には最初にその図を見た時、紙にインクをはさんで広げた絵づらだと捉えた記憶がある。そしてそれからその図から故意に連想を始めた。100年以上前のそれを貶めはしないが､信用もしていない。

■４■人間はそれを元に個人的あるいは集団的にイメージを連想するが、同時にインクのシミでもあると分かっている。しかし現今までのAIは後者だけしか認識できない。良くても人間の過去のメジャーな反応を示すか、人間がするであろうメジャーな反応の予想をする。日本語の見えないルビは読めないのだ。

■５■AIはトリックアートを作ることはできる。人間の錯覚に関する大量の画像データから錯覚を生む要素を集積し、色彩や明度のコントラスト・形状の歪み・遠近法その様々なパターンを抽出し、今までにないものを生成する。しかし人間の知覚の優劣とは別に､それ自体の錯覚･トリックを認識できないのだ。

■６■私たちは大小スケールの時間的歴史や地域的慣習、周囲のブームや個人的性向など様々な要因と制限の中で日々の生活を送っている。人間を超えた大局的視座からのものの見方や方向性だけを示しても中々響かない。極大のみでは味わえない日々の極小な快苦を楽しむことすらできることを自覚する道筋。

■７■｢自分｣のものを増やして行けば行くほど自分は小さくなり、それを捨て去り削り落として行けば行くほど自分は自ずからになって行く。私たちの感覚器官も思考や感情のスケールも、対数的だからこそ極大と極小の双方を味わえ、しかも二元を越え、数理や言語のみの世界観を笑いつつはみ出して行ける。

■８■人類の行く末と今晩の夕食のおかずを同一レベルでも考えられる人と、全く別物だとしか捉えられない人がいるから面白い。どちらも欠けたらつまらなくなる世界で、人類の行く末も今晩の夕食のおかず問題もロールシャッハテストやトリックアートとしても捉え扱えることをAIは羨ましがれるだろうか。

画像２：「YURAKU-GROUP」 https://yuraku-group.jp/blog-sumiyoshi/color-illusions-2/より借用加工｡
画像４：｢みんなの子猫ブリーダー｣ https://www.koneko-breeder.com/magazine/12166　より借用加工｡

20251123 Sunday