47068

■１■名古屋は広く直線的な道路が多い。その多くは80年前に市の中心部が焦土と化した後、復興時に大胆な都市計画に基づき、片側数車線の広い道路が縦横に走る街並みが形成されたからだ。しかし時々斜めで細いがそれなりに真っ直ぐな道が、広い道路に寸断されているのを見かける。うちの近所の道もだ。

■２■そんな斜めの小路が主要幹線に出くわすと、中央分離帯があるので、歩行者はわざわざ信号まで迂回しなければならない。そんな小道のに存在がずっと不思議だった。しかしかろうじて今でも残るそのような道の方がずっと歴史が深い事実を知る。実際に歩いて体で味わおうとは昨日までは思わなかった。

■３■近所を通る実際の塩付街道は太い道路に対して１本あるいは数本ずれた本当に細い道だ。瑞穂運動場でかき消された道は新瑞橋付近で地図上に復活し、桜本町付近で消失している。最初期の起点は呼続公園にある冨部神社付近らしい。他界した猫たちの霊園を歩行供養した時、礼を尽くしといて良かった。

■４■８～12世紀の平安海進が収まるに従い海岸線は後退していったが、こちらも桜本町駅まで後退して、５時33分の始発に乗った。新瑞橋で名城線左回りに乗り換えるが、同43分始発の列車がホームでスタンバイしていた。駅員さんが箒と塵取りで丁寧に車内を綺麗にしている。日本だよなあとほっこりする。

■５■車内で一休みしてから、10駅目のナゴヤドーム前矢田駅で降りる。御器所を南北に貫く名古屋環状線の南側から、北端にワープした形だ。もうすっかり明るい道を南下開始だ。左手にイオンモールやナゴヤドームを眺めながら、かつての塩の集積所であり、信州や美濃への出荷場所だった出来町まで歩く。

■６■ここまで来ると塩付街道の名前が復活するのだ。一見なくの変哲もない住宅地の間の小道をひたすら辿って南下していると、この身の中を別の時が流れていく感じがする。遥か昔の人々の見たことのない面影や情緒の残像のような妄想や、自分自身の忘れ去って久しい過去の残響。おっと錦通だ注意しろ。

■７■錦通と並行して走る広小路通を抜けたところで、塩付街道はなぜか３ブロック分ずれて続いているのだ。慎重に今池を抜け、でかい天理教の愛町分教会の建物群の間の細い道を抜け、何度も繰り返してきたように信号まで遠回りしてから塩付街道という名の住宅街の小道を辿ると、なんやのＹ字路に出た。

■８■さらに、山王通に分断されている斜めの道を進むために信号まで迂回してから元の道筋に戻り、ついにスタート地点に帰還した。道の傍にある名所や史跡に目をくれる暇もなく歩き倒して、名古屋を環状に走る名城線をφ状に歩いたのだなと、数と形オタクとしてひとりよがりの自己満足物語が終わった。

■９■玄関前に戻ってきて、万歩計を見ていないことに気が付きスマホを開ける。14444歩。何それ？ヤラセでしょ？まじ？ワシ､数に遊ばれてるの？いや多分仕組んだのは、自分の人生というメタ物語の作者であり､演者であり､編集者であり､鑑賞者であり､批評家でもある自分自身だろう。犯人はオマエだった。

20251114 Friday