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■１■午前４時半。９℃、体感７℃。日の出までにさらに下がるはずだ。御器所交差点からまず１km弱西進し、荒畑駅の手前で左折すれば、そこからは裏道ながらほぼ真っ直ぐ道なりに４km進み行く。…はずだったのだが、曲がり角を行き過ぎて迷路状態に。｢出口｣という町の信号で何とか当初のルートに乗る。

■２■名古屋市南区には｢道徳｣という地名がある。この地名は1812年に尾張藩がそれまでの御替地新田を、｢道義を以て徳を施す｣という方針から｢道徳新田｣と改称したことに由来する。通常の道徳とは外的強制でも独り善がりでもなく、正しい行動を取るべく自発的に善悪を判断する内面的規範や倫理のことだ。

■３■普通は｢道徳｣とは老子の『道徳経』にルーツを持つ概念であるとされる。しかし日本の道徳という言葉では、この｢道徳新田｣から来ているという説もある。個人的には道徳とは縁遠く、むしろ不道徳極まりない者と自覚しているが、今日はその地に至る道筋を辿り歩むことでそれを掴もうという目論みだ。

■４■闇の中に静かに沈む街を進む時に一番感じるのは、体が動くことへの感謝だが、体自体はその前に動いていることを喜んでいる。『道徳経』は道経と徳経合わせて81章からなる。｢上徳は徳とせず是を以って徳有り｣で始まる。これが倫理的に正しいというようなものは正しい生き方などではないって意味。

■５■｢これは真理です｣と示せるものは真理などでないという言い草。老子爺ちゃんは好きだ。日本語に常にある反対の意味の見えないルビのように４価的でもある。説得力は論の巧みよりその人の生き様に出る。対立のない無為自然な生き方が｢道｣だ。４km進んだら道が大きな川の堤防で止まった。山崎川だ。

■６■５時22分、6600歩。ここからは川の堤防に沿って大回りして道徳橋を渡り、道徳の地に辿り着くのだ。頭上には月齢20の月と木星が輝き、その下にあるのは多分プロキオンとシリウス。桜の名所である近所の山崎川が海に注ぐ直前には大河になっているのを、大きく育ってくれたと涙する母の気分で見る。

■７■ＪＲと新幹線をくぐり、大きく西に曲がる山崎川に架かる橋を道徳橋だと思って渡り、かなり進んでからまた道を間違えたことに気づき戻る。往復で１kmほどロスしてちょっと萎れかけてたら、辺りが薄バラ色の世界になった。いつの間にか日が昇りかけている。改めて道徳橋を渡る。８車線と道が広い。

■８■道徳新町と道徳北町があるのか。取り敢えず体に刻むように道徳の名が付くバス停や学校や公園を巡り歩き、最後に名鉄の道徳駅から帰路に就いた。…はずだったのだが、次の電車まで15分も待たされ、金山駅で間違えてＪＲ連絡口から出たので仕方なく名古屋駅まで行くはめに。今日は間違い続きだな。

■９■名古屋駅の朝の混雑を経て､地下鉄桜通線に乗り継いだ時には14150歩だ。4000歩は自らの落ち度で余計だったかな。無駄とは思わないが、道徳は遠い。帰って家で調べたら、道徳という地名は高知県高岡郡四万十町にもがあるようだ。40010か。数オタク的には26000ほど負けてる気が。…て何の計算だよ。

20251111 Tuesday