■１■４時25分、御器所交差点より東進開始。13℃、体感11℃。雨上がりのしっとりした街並み。24時間営業のマックの明かりが眩しい。この時間はいつも客がいない。川名公園を横切り、山花町の無人の車道を歩く。ひたすら無心で歩を進めると、自分の視座は不動のままで風景が後方に流れ行く感覚になる。
■２■この感覚を思考だけで得ようとすると大変だが、通常の時間と空間の感覚がおぼろになり、それに垂直方向の何かが立ち現れてくる。不確定で捉えどころがないが、それでも単なる幻覚や妄想とは一線を画したい、懐かしさを伴った想起、あるいは共振する、言語化や視覚化してしまえば消えそうなそれ。
■３■名大がある千種区の縁を左折し、四谷料金所のある高速東山線を跨ぎ丘を越えると、地下鉄が下を通る東山通に出る。そこからは道なりに東進だ。歩いて名古屋を頭に叩き込むのではなく、体に染み込ませているという感じ。東京から東名高速を走ってきた深夜ハイウェイバスが名古屋駅に向かって走る。
■４■頭上には月齢19の寝待月。路上の車や景色の流れが水の流れのようにも感じる。マンションの角部屋の少し独特なベランダの形と、それを見上げる角度が、不確かだがふくよかな懐かしい感覚的記憶を意識と無意識のあわいに滲み出させる。過去の記憶か未来の予兆か正視しようとすると焦点がぼやける。
■５■５時30分、星ヶ丘通過。7000歩。今日の星ヶ丘テラスはまだ暗く眠っている。東山通の右側の道はみな登り坂なので、この道が大きな丘陵の縁を走っていることが分かる。全ての朝は１つとして同じものはなく、それでも朝としては皆同じでもある。この同じで違うところから流れ出てくるあの懐かしさ。
■６■突然足元から暖気が吹きあがってきた。地下鉄の通気口だった。５時45分､一社(いっしゃ)駅前を通過､8600歩。次の上社(かみやしろ)駅まで歩こう。｢社｣の読みが違うのは､元々上社(かみやしろ)下社(しもやしろ)一色(いっしき)があり、後ろ２者が合併していつしか一社(いっしゃ)になったからだとか。
■７■東方が白んできて、黒かった空がやや紫みを帯びた深く鮮やかな群青色のグラデーションに代わる。群青色。突如頭の中で大学時代に１つ後輩だったコウロギケイジ君が自ら作詞作曲し、ギターで弾き語りしていた歌がリフレインする。｢♪空はもう群青色に変わり、１つ１つ窓辺に明かりが灯る〜｣(※)。
■８■名古屋環状第２自動車道が東名高速と繋がる上社ジャンクションをくぐって、上社駅に辿り着いたのは６時ぴったりだった。10488歩。距離感…というか歩数感の10000歩が体に馴染んて来ている。６時３分発に乗って帰路に就いたのだが、明い世界の中では、あの懐かしい無意識の記憶は霧散していた。
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(※)歌詞の１番の続きは以下のようだったと記憶している。
「彼らの言うことにはもう
耳を貸す時じゃない今は
君だけの紙芝居はもう店じまい
重い足を引きずり家路につこう
ンーン、ンンンー」
20251110
Monsday
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