■１■｢言語｣を介して表現する時、｢指示性」と｢自己表出性｣という２重の構造特性を自覚する必要がある。前者は言葉によって対象の中にイメージを喚起することにより、相互理解を可能とする属性であり、後者は自分の思考や感情を伝達可能な形に転化する際に、自己の思い入れも内包してしまう属性である。
■２■数学や論理やコンピューター言語による表現は指示性が高く、詩や日記などの表現は自己表出性が高い。またたとえ同じ言葉でも、対象の母集団が時間や経験を共有している人々の場合は指示性が高く、逆の場合は指示性が極端に低くなる。日本語の場合、日本人同士ではこの両義性が高文脈で機能する。
■３■折角才能に満ち溢れ、独自の哲学や宇宙論を開示し展開しようとしている人でも、自己表出性が高く指示性や拡散性の低い表現は、無理解や誤解の生まれる余地が大きい。例えば日本人が高文脈文化の日本語を用いつつ、低文脈文化の欧米的論理で理論や世界観を展開するのは、かなりの悪手と言えよう。
■４■例えば数学や物理学などによる表現を考えると、その素養を持つ人々に対しては自己表出性を抑えた指示性の高い表現となるけれど、対象母集団の中に数学や物理学を理解する人々が少なければ拡散性は低くなる。分からないということが分からないと、自らの表現の在りようへの内省や改変に至らない。
■５■歴史は勝者が書いたものと言う表現があるが、むしろ歴史は長生きしたものが書くべきだろう。革命や事変、改革や発明の事前と事後をできるだけ等距離から無意識も含めて体感した者とか。例えば電話やＴＶ出現の前後とか、ネットやＡＩの無い時代とある時代を跨いで生きたものしか差異体感はない。
■６■全部ＡＩにぶち込んで地上的なアカシックレコードを作らせたとしても、現在のところではまだ人間の不条理な行動の理由や自己破滅的な情動が理解できないはずなので、勝者でなく制作者のバイアスが大きい。個人の寿命に限度があるが、それを超えて我々(日本人)の中に長く生き続けるものとは何か？
■７■故松岡正剛氏は、日本人が漢字を取り入れた時、万葉仮名を生み、平仮名を作り、カタカナを創出し、訓読みを重ねて｢日本語｣にしていった日本人の独自のスタンスを、(ダブルでなく)デュアルスタンダードであったと表現している。日本には古来よりずっと単なる二元でない４値的な発想があったのだ。
■８■丁寧に文字を書くと気持ちが良い。丁寧に声を出して読むと気持ちが良い。端末などのインターフェイスを介して、身体性の欠落した言語活動だけを続けると、自らの身体も含む言語活動能力を喪失しかねない。これは脳に電極を差し込んで、同様の快感を生起させるという方法論の方向とは一線を画す。
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20250512
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