■１■2014年８月上旬に､奈良のJR巻向(まきむく)駅から東に1.5km程の穴師で裏ヌース合宿と称して、ヌーソロジーとは全然関係のない合宿をした。場所はラムーコ氏の当時の根城で、好きな時に来て好きな時に抜けて良いゆるゆるの集いで、自炊して好きなことを語り、大神神社まで歩いて三輪山にも登った。
■２■夜になると隣に穴師坐兵主神社がある外は真っ暗で、とにかく妖怪とか幽霊とかならまだしも、それが何か分からない何かに対して強烈な怖さを感じたものだ。夜中は屋外の離れにあるトイレに１人で行けずに、やはり圧倒的な何かへの畏れを感じ得る、東京から来たツッチーと連れションをしたものだ。
■３■それはただ得体が知れないし認識も説明もできない何かで、恐れだけでなく畏れも入っていたのだが、今ならそれを｢ヌミノーゼ｣と言う共有概念で呼ぶことができるのかも知れない。それは説明すればするほど指間からすり抜け行くものではあるし、お互いが全く同じことを念頭に共有するとは限らない。
■４■ヌミノーゼ体験の特徴を敢えて文字列にしてみよう。概念的把握が不可能で説明し難く、日常感覚にとっては絶対的違和感でありつつ、人間が本来備える原始的な感覚により、内面から沸き起こる宗教を超えた特殊な感情として直感するもので、畏怖と魅惑という相反する感情を伴い、個我が消えていく。
■５■｢ヌミノーゼ(Numinose)｣はドイツの神学者ルドルフ・オットーが『聖なるもの』(1917年)の中で定義した概念だ。彼は｢聖なるもの｣のうち合理的な理解に適う部分を除けた概念を､ラテン語の｢神威(numen)｣から"das
Numinose"なる造語で規定し、非合理的かつ直接的な経験こそが｢聖なるもの｣だと述べた。
■６■彼はヌミノーゼを｢戦慄的な神秘｣と｢魅力的な神秘｣という二律背反的する２つの切り口から説明している。欧米的思考だとそれは絶対他者との遭遇という身の毛もよだつ体験だろうが、日本語には｢こわいもの見たさ｣と言う言葉もあるが、自己他者的思考ではないのでむしろ１つに溶け行く感覚もあろう。
■７■日本語の畏怖の念とは恐怖に固まるのでなく恐れ敬いかしこまる事だ。神仏に遭遇するような宗教的体験に限らず、芸術を介しての言葉を超えた感動、大自然の中で一体化したような多幸感、夢の中の体験なのに目覚めた時の魂が励起するような情動もまた、このヌミノーゼに含められると考えられよう。
■８■形状しがたかった感情や情動に１つの言葉が重なったから終わりでなく、これからも私たちはそれに魅せられて、入念に準備しつつそれを目指すだろう。だがヌミノーゼとは待ち構え呑み込もうとする過去からの既知既存ではなく、常に想定外の未来からやって来る未知なる初見なのだ。それでも行くが。
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(※)心理学者のユングは，人間が心の深奥にある元型にふれる時に，この根源的恐れと魅惑を感じると述べている。なお、以下はほとんど役に立たないが、似たような言葉の超簡単な語義的説明。
ヌース…全体を一挙に把握する直観理性。事物の本質を把握する能力。広義には事物を弁別する能力。
ヌーメン…ヌースより派生。神の意志、神の存在、神性を表すラテン語。あるいは物等に宿る魔法的な力。
ヌーメナン…ヌースに由来する。考えられたもの、仮想物を意味する語。プラトンが言う｢イデア｣に相当する｡
マナ…人間の通常の力を超越し、自然の共通法則の外側にあって、あらゆる事象に効果を及ぼすもの。物理的な力(power)ではない力(force)。所有することで最大限の優位性を得られるもの。
20250511
Sunday
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