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■１■名古屋の大きな川畔はほぼ全て歩いた。深く考えずに心地良いから歩いて回り、ちょうどコンプリートした頃そこに歴史が直交してきた。自ら強く求めていなくても仄めかしが横切り、少し調べるとそれまでの自然で無色だった川とその周りの意味が激変する。季節が変わるとその趣も多様に変わり巡る。

■２■先日城東区の極楽という町を訪れる直前に、そこから１km程南に下ったところに大きな緑地公園があり、その北側に大きな牧野ヶ池があることを知った。町を一通り歩いた後、まだ少し余力があるので水辺が見たくなり行ってみた。事前情報が全くないまま星野珈琲店がある交差点を越えたら現地だった。

■３■入口らしいところを通ると右手にちらりと水面が見えたので、できるだけ池に近い小道を右回りに辿った。既に森の中で、道も少し平坦な山の中のように人気が無い。いきなり｢マムシに注意｣の看板に出くわす。な、何ですと!?突然の恐怖でたじろいだが、未知の領域に入り込む興奮が自らの背中を押す。

■４■狭くて暗い木漏れ日だらけの小道をひたすら辿ると、急に半島のような突端部に出た。水辺に突出する先端部に立つのは大好きだ。ごろごろ石や砂場がある岸辺に降りてみる。水際に降りてみると、強風で水面が波立って打ち寄せる。風上の遥か遠くに池の端が見える。あの幾何学的な建造物は何だろう。

■５■１本だけ松が立つ飛び地のような部分があり、橋で繋がっていている。そこに登って船首に立つ気分を味わった。水は透明だが遠目からは抹茶のような浅黄色に見える。橋を渡って岸に戻ると立ち入り禁止の看板があった。いやもう遅いです。ここは出島と言うらしい。再び小径に戻って道に沿って進む。

■６■岸辺の森は荒れたままのようなところも散見できる。広大な池の廻りを全て管理し整備するのは難しいのだろう。強風で騒めく木々が時々恐ろしくも感じられる。自らを鼓舞しながら歩くと、雪見堂という名の池上に突出した物見台があった。ここも立ち入り禁止だ。この辺りも別の半島的な部分だった。

■７■別の道から岸に降りてみる。対岸が随分近くになった。しかし此岸は人の気配がしない。なぜワクワクしているのか分かった。川岸を歩いている感覚に近いのだ。この奇妙な孤立感。２度と味わえない初見感覚をむさぼる。川の次は池か。さらに森歩き的な気分で進むとアスファルトの道が並走してきた。

■８■後で調べたらさらに車道があり、その先にはゴルフ場もあるようだ。車道が堤防道路でアスファルトの道は遊歩道、そして今歩いて来た道は水辺近くの隘路に似た関係性に思える。池の南端まで来るとそれらの道が１つになり人の姿も見え始めた。さらに右回りに池の端を進むと、整備された岸辺に出た。

■９■なるほど、片側の岸は極力自然のままに、そして対岸はきっちりと整備された岸になっているのか。対岸に見えていた人工物は幾何学的なデザインのベンチや遊歩道だった。先ほどの出島や休憩所をここから眺める。普通の人は牧野ヶ池の風景とはここからのものを言うのだろう。水の色が抹茶に見える。

■10■遊歩道を歩き切って道を直角に右折すると、しばらくは池の端が私有地で立ち入り禁止の看板が立つが、途中から最後の遊歩道に繋がっている。高い竹林が風でぶつかり合い、乾いた音がする。ようやく一回りして出発点に戻る。池の周囲は３kmらしいが、林中や岸辺を巡ってそれよりかなり長く歩いた。

■11■名前に揺らぎがあるが、牧野池は江戸時代の正保３(1646)年に灌漑用に作られた溜池で、名古屋市で１番大きい池になる。池を含む牧野ヶ池緑地は昭和15(1940)年に名古屋市を取り巻く防空緑地として計画され、昭和32(1957)年に広域公園としてスタートした。今後は池の岸辺巡りも視野に入れなくては。

20250510 Sturday