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■１■日本にいると分からないが、多くの外国人から或いは昔の日本人からすると、今の日本は極楽に見えるのではなかろうか。冗談じゃない、日々生きるので精一杯で地獄の様だと言う人もいるだろう。しかし極楽と地獄の関係は、天国と地獄のような欧米的二元対立ではなく、極楽は地獄をも内包している。

■２■天台宗の『仏祖統紀』の中に｢十界論｣というものが出てくる。人間の生命状態を地獄界･餓鬼界･畜生界･修羅界･人界･天界･声聞界･縁覚界･菩薩界･仏界の十界に分類したものだが、究極は｢十界互具」つまり仏界から地獄界までの十界のそれぞれが十界を有すと断言している。極楽も全スペクトルありだろう。

■３■地獄で極楽を夢見ることはしても、その実現は至難の業でほぼ不可能だろう。餓鬼界･畜生界･修羅界等々でも上位境涯への転換は難関至極だろう。しかし逆方向は案外簡単そうだ。仏は慈悲で地獄にも舞い降りよう。多分慈悲からだけでなく退屈や好奇心からも、迷妄世界を訪問し得るのではなかろうか。

■４■私たちは熱烈な教義に囚われる必要はないので、極楽もまた地獄や様々な境涯領域の世界を内包していると考える。地獄の苦しみを共に感じるために、覚醒タイマーを掛けて自らの仏性を忘却し、迷妄に意識を調律してくる。しかし世界は想起の時が来ても失念したままのダイバーブッダだらけなのかも。

■５■極楽は主に１世紀頃にインドで成立した『無量寿経』と『阿弥陀経』、それと４～５世紀に中央アジアで成立したと考えられている『観無量寿経』に説かれている。極楽は全く苦しみのない安楽な理想の世界で、西方十万億仏土にあるとされるが、唯心の浄土つまり己の心そのものだという捉え方もある。

■６■というわけでちょっと極楽に行ってきた。現在の極楽の人口は約3500人だった。痴呆老人の妄想世界の極楽ではないよ。その極楽は西方十万億土の彼方ではなく、当家から東方に直線距離で８kmほどの名古屋市名東区にある。極楽の交差点で極楽小学校の生徒たちがはしゃぎながら横断歩道を渡っていた。

■７■１～５丁目まである極楽という町の名は、既に江戸期寛政年間の高針村の絵図に｢極楽池｣とある。その由来は洪水により田畑が流されない安住の地として極楽と命名したという説や、小牧・長久手の戦いの際に敗残兵が命からがら当地に辿り着き、この地を極楽と称したという説など複数が残されている。

■８■満喫すべき地獄の中で、チキンゲームの様に最後の最後まで想起覚醒のタイマーを伸ばし過ぎて、自分が今いるところが｢地獄で極楽を夢見る地獄｣なのか、｢極楽から地獄を体験している極楽｣なのか分からなくなっている未ブッダなブッダ達、あるいはノンレム睡眠に移行中の荘子達。珍奇な多重世界論。

■９■日本の地獄も極楽もみんな極楽なんだけど、長野のお猿が入る地獄谷温泉も、別府の地獄めぐりも、行ってみればやはりサイコーで極楽だった。そういえば、極楽寺って鎌倉にもあったし名古屋にもあったなと調べてみたら、日本には各地に分かっているだけでも｢極楽寺｣が292カ所も存在しているらしい。

20250507 Wednesday