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■１■｢川｣とは雨や地下水等の自然の水が集まり、重力と傾斜に従い陸地を流れ下り、細長い水路を作る現象を指す。定義とは抽象度を上げたものだからしかたないが何とも味気ない。河畔を歩いていて無意識に心に染み入るものには、その明媚な地形に限らず、時間方向の堆積物と言える歴史もあるのだろう。

■２■名古屋駅から北西に伸びる名鉄(名古屋鉄道)は、JRの東海道線及び新幹線と共に枇杷島で庄内川を渡る。川に沿ってその架橋をくぐりながら、東枇杷島駅は名古屋市にあり、西枇杷島駅は対岸の清須市側にあることを知った。枇杷(びわ)は難読だが、そもそもなぜこの辺りは枇杷島と言う地名なのだろう。

■３■ビワと言えば種が大きい果実の｢枇杷｣と、楽器の｢琵琶｣が連想される。
｢枇杷｣がたくさん収穫できたので｢枇杷島｣という地名になったという説がある。また琵琶湖の名前が琵琶の形に似ていることに由来するように、庄内川の中州の形が枇杷に似ていたからという話もあるが、共に余りにも即物的すぎる。

■４■しかし楽器の琵琶そのものに由来する話もある。平安末期、平清盛により尾張へ配流された琵琶の名手だった藤原師長(もろなが)が長者の娘と親しくなった。後に都に呼び戻される時に形見にと琵琶を与えたが、悲しんだ娘はその琵琶｢白菊｣を抱いて入水して果てたという。白菊という町名も残っている。

■５■100％信じてはいないが､元々植物の枇杷と共に比と巴に木ヘンが付いていたが、後に琴(弦楽器)の一種であるため｢琵琶｣と表記されるようになったと言う。楽器の琵琶という漢字は弦に対してバチを外側に弾く動作を｢琵pi｣、内側に弾くのを｢琶pa｣と言い、この<p>音が<b>音に変化して現在に至っている。

■６■川の流れや岸辺は定まらないが、庄内川にはかつて成願寺･名塚･枇杷島の３つの大きな河原があり、枇杷島河原は枇杷島橋から下流中村区稲葉地まで広がっていた。まだ幼名の吉法師だった信長は、茶せん髷で腰へいろいろなものをぶら下げて、近在の子ども達とこの河原でよく遊んだと伝えられている。

■７■遊び仲間に中村の稚児集団があり、後の秀吉である日吉丸もその集団の中にいた。彼らは川で魚を捕り、枇杷島や清須まで売りに行ったと言われている。『信長公記』には「信長は15、16歳の頃まで朝夕に馬術の訓練をし、川で水連した。河原では家来たちに竹槍で仕合をさせていた」とも書かれてある。

■８■その河原が枇杷島河原であり、日吉丸のほかにも犬千代(後の前田利家)も稚児集団の１人だったらしい。さらに織田家の人質として２年間尾張で生活していた孤独な松平竹千代(後の家康)も、信長に誘われて朝夕庄内川で泳ぎ、枇杷島河原で一緒になって遊んだ可能性もある。改めて河原を脳内散歩する。

■９■後に天下を治めた徳川家康は｢江戸の神田｣｢大阪の天満｣と並ぶ日本三大市場の一つとして、清須市西枇杷島町に｢下小田井の市｣を開かせた。それは昭和58(1983)年移転により閉鎖されるまで当地で続いていた。幼少時代に遊んだ信長と家康の絆などを勝手に想像する。川の流れに垂直方向に歴史も流れる。

■10■ペルシアからインド経由で日本に来た最古の琵琶は正倉院に所蔵されている。琵琶湖上の竹生島に祭られる弁才天が持つ楽器の琵琶が湖の形状と呼応している。それもこれも単なる後付けでなく、むしろ河原で無意識に感受する先読み、そして重ね合わせる共鳴りとして今心身で味わう喜び楽しさがある。

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画像<2>「攻城団」、「日本の古本屋」　画像<3>「琵琶図書館」、「tenki.jp」　画像<6>左「東京新聞」

■11■｢どや、凄かろう｣という自慢話でなく、ちょっとふざけるなよという呆れた個人的なシンクロ話だが、この文字列を形にし終えた後で、新潟県柏崎市にも同じ枇杷島という地名があることを知った。小学３年まで当地に住んでいたし、大学１年の時柏崎の図書館まで民俗学の調査で足を運んだこともある。

■12■この地名の由来に関しては『刈羽郡旧蹟志』に以下の３説が記されている。①昔、水圜(みわ)島と呼ばれたものが転訛したもの。②当地にあった宇佐美氏の居城の敷地が琵琶のような形をしていた。③その城の三の丸の別名が琵琶島であった。昨日の海馬もそうだけど、実は世界はシンクロだらけなのだ。

■33■柏崎市刈羽と言えば、前世紀に神奈川県浦賀に着いたフランス発の原発燃料の輸送車を刈羽原発まで陸路バスで追うというイベントに参加したことを思い出した。そういえば柏崎はいとこが市役所勤務を定年で終えたばかりだし、今世紀も葬式等で複数回行っていたわ。御免、もう許して記憶の群たちよ。

20250501 Thursday