46063

■１■若い頃は公共交通機関の｢優先席｣付近には寄り付かなかった。さすがに最近は優先席の位置を意識し、長距離地上歩行の帰路に、疲れたら座ることもある。一般的に優先席とは公共交通機関に設置される､交通弱者(高齢者､障害者､傷病者､妊婦､ベビーカー含む乳幼児連れ等)に着席を優先する座席のことだ。

■２■名古屋市営地下鉄の優先席配置は、各車両の最前部と最後部の向かい合わせの３人掛けベンチシート部分に設けられていて、両側６席のケース、片側３席のケース、そして片側３席＋片側車椅子orベビーカースペースになっている。混雑区間や混雑時以外の優先席界隈は、殆どの場合座れないことはない。

■３■しかし混雑が激しい東山線の名古屋駅寄り区間や、名城線の学生が多く乗り降りする区間では、時々おや？と思うことがある。片側３席が優先席の反対側の３席に座っていた時、優先席にどう見ても若い学生らしき青年が、座っていた。空席だったら誰が座っても良いと思うのでそれ自体は特に問題ない。

■４■茶屋ヶ坂で押し車タイプのシルバーカーと呼ばれる４輪(正確には前輪は２輪ずつで左右に首を振る６輪)の歩行補助器を押しながら老婆が乗ってきた。青年は気づかないのかスマホに夢中のまま座り続けている。老婆はドア傍のポールに掴まって立った。誰も気に掛けないか、気に掛けないふりをしている。

■５■５■辺りを２度見３度見してから、老婆に声掛けして席を譲った。｢どうぞ｣｢あ、すぐ降りますので。｣｢私もすぐ降りますから。｣会話はそれだけだが、老婆の気遣いは感じられた。実際私は次の砂田橋で下車した。別に自慢話でも非難話でもない。外部的視座からは、爺ぃが婆ぁに普通席を譲っただけのことだ。

■６■しかし個人的には初めて考えさせられた。外国人の多くから日本人は気遣いと心配りがあり素晴らしいと讃えられもするけれど、日本人同士ではその心遣いゆえに優先席を譲らないケースも少なくないらしい。「まだ席を譲ってもらう程歳を取ってはいない」と断る人もいる。実際私の母親はそうだった。

■７■周囲のバランスを乱すまいと考えたり、単に恥ずかしくて口を開かなかったりするし、お年寄り側もまた「若い人たちは仕事や勉強で疲れているのだから」と過度に気を遣ったりする。日本人同士の中ではまた別の領域展開がある。まあ一周回った爺ぃビューだと羞恥も周囲配慮も状況洞察もなしだけど。

■８■あのゲームに専心して周囲の状況把握なしの青年の問題は、優先席に座る若者に自分は年寄りだからお前が席を譲るのは当然だと主張する独善毒老人と双対だろう。座りたかったら優先席に行けばいいのだと誤認したまま一般座席を死守する者も含め、様々に豊かな状況の重要なキャラクターなのだろう。

■９■二十歳前のやたら論理や観察を大事にしていた頃、あっさり席を譲る友人に対し「自分は相手の諸状況を熟慮してから声掛けをするべきだと思うんだが」と言ったら、「あ、もし失礼だったらその時に謝るわ」と言われた。そんなことを思い出しながら歩いていたら、乗り継ぎのバスがドンピシャで来た。

■10■ちなみに日本で優先席がシルバーシートという名で本格的に始められたのは1973年の９月15日で、旧国鉄での中央線快速が最初らしい。そういえば八王子から新宿に向かう電車の中に、丸の中に２枚の葉っぱみたいなマークがあった。当時生まれた子達ももう50過ぎか。爺ぃの記憶は最早マダラ曼荼羅だ。

20250419 Sturday