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■１■未明の３時過ぎにふと目が覚める。目を閉じたまま耳を澄ます。窓の外には宮沢賢治なら｢どっどどどどうどどどうどどどう」とでも表現しそうな風が吹いている｡ぱらぱらと雨が屋根を打ち始めた。闇の中に点を打つ。１つ､２つ…。そこに見えない線を引く。横になったままそれを文字列にしていく。

■２■漢字で最もシンプルな文字は一画で書ける｢一｣だ。｢コン、たていち｣と読む縦一本線の｢｜｣という文字もあるが今は捨て置き、１本の線は２点を繋いでいる｡書道では線を引く時の最初と最後に強弱をつけるところを<入り>と<抜き>とも言うが、幾何学的に線は点と点を結び繋ぐことで成立するとも言えるる。

■３■私たちは２点があるとその間に線を見ようとする。近いものや似ているものをまとめて１つの図形として捉えようとする知覚の性質で｢近接の要因｣と呼ばれている。全てが創造的で肯定的とは主張しないが、それでも点と点を結び、繋ぎ、２つを１つにすることは、見えないものを共に見る共有の素養だ。

■４■繋ぎ結び１つの線にする点と点を､<人と人>､<国と国>､<あなたと私>､<私と世界>に置き換えることはさほど難しい操作ではない。ネットならリンク、言葉なら暗喩や直喩。分断するためにはそもそも結びつきあるいは単一である必要がある。１人で両手を合わせるなら合掌、２人で手を結ぶなら握手となる。

■５■一神教的思想は１に多が含まれ、日本の八百万神的な捉え方は多が単品でも総じても１である。日本人は双方を許容できるが、一神教的思考だけではそれは厳しい。低文脈文化と高文脈文化の言語空間でもそれは言える。数の数え始めの１と２で、二而不二(２にして２にあらず)と言われれば発狂しよう。

■６■古くから日本語は１音だけでも意味を持ち言葉として成り立っていた。１～10までの数を全て１音で表し得る言葉は世界中でも唯一だろう。そして日本語には２つの音が結びついた美しい言葉に満ちている。うみ･そら･やま･かわ･ほし･とり･いぬ･ねこ･ゆめ…漢字導入後は１音がさらに沢山の意味を持った。

■７■ものはエネルギーを持つと振動し、私たちの聴覚器官はそれを音として捉える。２つの音を繋げると音の変化や調和により、私たちの心が波立ち情が生まれる。また音の変化に時を見る。差し伸ばされた手を掴むのも払いのけるのも自由だが、人間は２点があると自然に線を引いて１つにする特性がある。

■８■私たちの使い方次第で天使にも悪魔にもなり得るAIに全て任せて安穏とするその前に、まだここにある身体と情緒を用いて数を数え、手で書き、声で読み、物事を作り動かす贅沢と奇跡を味わい尽くしたい。それに関しては無関心のまま喪失した後に嘆くよりむしろ吝嗇でありたい。ようやく夜が明けた。

20250414 Monday