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■１■花曇りの昼下がり、突然鶴舞公園に行こうと決めた。世界が終わる前に幸せな日本の花見を記憶に刻もうと考えた。日記を見ると、2019年にもそんな衝動があったようだ。翌年あの新型コロナ狂騒曲が世界中を席巻するとはつゆ知らず。今回も何か大異変が起こり世界が変わるとは思ってもいないのだが。

■２■夢よりももっと伝え難い、この思考や言語で表し難い、かすかだが確かな感覚を拾っていこうと思う。何もないに越したことはないし、良いことが起こるかもしれないし。いや、言い訳は何でもよかったのかもしれない。桜の花が呼んでいる。そんな手前味噌な錯覚でも、人に迷惑かけなければ大歓迎だ。

■３■桜は満開で人も満杯だ。非常に多くの人が、桜の木の無い所にもシートを敷いて飲み食いしている。どこもかしこも宴たけなわの様相で、その間を縫って多く人が流れ歩いている。疲れた顔や、想いをうまく伝えられない不安顔もあるが、総じて人々の顔は明るく楽しそうだ。まあ辛い人は出てこないか。

■４■世界情勢がどうであろうと、桜の開花時期は活力を与えてくれる。平和ボケとも言われようが、平和だったからこそボケることができるのだ。国を分かって内戦したり、代理戦争で経済を回しているつもりの戦争ボケよりよほど良い。キッチンカーの出店も物凄い数で稼動している。外国人も花を愛でる。

■５■ベンチで一人老婆が人の流れを眺めている。思い出と花を重ねているのだろうか、幸せそうに眼を細めつつ。人が溢れて小径の路肩に座り込み、出店で買った食べ物を口にしている。芝生の上でいちゃつくカップル。多分今日知り合ったばかりの日本人と外国人の子供達が、嬌声を上げながら走って行く。

■６■公園東端にある龍ケ池は現在も水が抜かれたままだ。園の東入口が再整備されていて、昔在った桜の老木が何本も切られて無くなっていた。また野外ステージにあるベンチの最前列に、優先席なのだろうか鉄パイプで背もたれとひじ掛けが付いていた。公園すらもどんどん整備され変わって行ってしまう。

■７■桜の開花は予祝と捉える。風は時。散り行く直前の桜木たちの佇まいを心に刻み、いずれ自ら想起して寿ぎに変えて行く。沢山の緩やかな笑顔の上に、３次元上の刻々の感情を超えて、ある程度の過去と未来の時間の幅を持たせて４次元的に喜怒哀楽を重ね見る、無害で無責任な妄想もそれなりに楽しい。

■８■名古屋市を特によく見たり歩いたりしないまま四半世紀が過ぎてしまったけれど、こんなふうに季節を眺め、ちょっとした歴史を調べながら色々受け取ることで、ようやくこの地が以前より好きになる。眼前の人波の一人一人は見知らぬ物語の様でもあるけれど、自らが段々この地そのものになっていく。

20250406 Sunday