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■１■毎朝起きて違和感があるのは、鏡の中に見知らぬ他人の顔が映っている事だ。常識的見地からは、自らの老いた外容と自己イメージとの余りの乖離を許容できずに、ＳＦ的転生話や魂の入れ代わり譚に逃げ込もうとする者の言明だと判じられよう。しかし個人的実感では理不尽極まりない超常現象なのだ。

■２■想像してみて欲しい。朝起きて違和感を感じ、鏡を覗き込んだ時そこにちょっと下品で貧相な老爺がいて、いくら位置をずらしても光学的にそれを見詰める視座に自分自身がいるらしいという驚愕。「いやまずその前に自らの現実逃避の事実そのものを見詰めろよ」という囁きすら内側から聞こえる恐怖。

■３■現今まではこの｢転生したら爺ぃだった現象｣を、仮初に受容するふりをして生きてきた。この手の一時流行った転生物語群は、総じて転生前の記憶はあってもその元の状態や世界には戻れないのが定番だ。そこで転生前の凡力が転生後はチートな能力となることを踏まえて、世界に馴染むのが定番なのだ。

■４■だが陰謀や残虐も渦巻く転生後のこの世界でも、物語上お約束のチートな能力が個人内に見当たらない。というかそもそも転生前の記憶すらほぼない。そこで今後は｢ホールライフ｣の世界観を喪失して、時間概念のある次元に落ち込んだ記憶喪失者であることを自覚し、記憶を取り戻すことに専念しよう。

■５■｢ホールライフ｣とは、誕生から死までの人生の各フェイズを同時に俯瞰できる意識の視座とその生命観のことだ。自らに生起する因果を知りつつも、それでもいつ何時でもそれを変え得る判断や行動をし得るという、全て決まっていつつ同時にそれをいつでも変革可能な自由も存在する、高次の世界観だ。

■６■邪悪な外部の主体や組織が個体の｢ホールライフ｣を失念させて、リニアルな時間の中に投げ込んだという受動的な物語に貶めるのではなく、ただ単に自らが何らかのミスから意識の中にバグを生じさせてしまい、それを自己調整して全記憶を取り戻すという、自作自演の高次のＲＰＧに重ねて生きるのだ。

■７■不快や苦痛はあっても何ら恐怖や悲観に捕われる必要はない。欺瞞や暴虐に満ちて見える世界に革命を起こして変えて行く物語でもない。自らの本来あるべき姿と形を想起して取り戻すために、時には怠惰や欲望に取り込まれＯＫで、極力笑い楽しみながら｢ホールライフ｣の視座と生命観を回復するのだ。

■８■戦略的には他者と対立するより信頼敬愛しつつ協力する。孤独と絶望の悲劇的コースよりは、甘えと依存ありの喜劇的コースを選択だ。線的な時間感覚の中だともう後がないから急ぎ目に。…うーむ、リアルな人生ゲームシフトの設定って結構楽しいな。取り敢えず腹が減ったから一服して飯でも食うか。

20250326 Wednesday