46037

■１■以前は何も考えずにただ歩くということを心掛けていたが、最近は歩くことを楽しむようになってきている。だからノルマもなく、速度や歩数や距離を念頭に置いて歩くというわけでもなくなってきている。冬が終わり、命が萌え出す春が訪れて、ただ歩くだけでしみじみと幸せな気持ちになりゆくのだ。

■２■庄内川は豊公橋を渡るとその直前で五条川と合流した新川まで300ｍ弱にまで近づいている。しかし２川は合流せず、共に蛇行しつつ６～７kmほど平行して流れ、下之一色町で再度接近する。しかしここからさらに30～10ｍほどの堤防を挟んで3.5kmほど並走し、最後の背割堤突端で合流してすぐに海に注ぐ。

■３■そもそも豊公橋の先の萱津橋直前で五条川と合流する新川も、実際に歩いたがほぼ直線に作られた人工川だった。なぜこれほどまでに人の手が加えられているのだろう。そこには度重なる川の氾濫洪水による悲惨な水害との長き戦いが想像される。治水(水を治める)とは洪水被害を未然に防ぐことなのだ。

■４■そもそも背割堤(せわりてい)とは何だろう。２つの河川の水位に大きな差がある場合、一方の河川の増水時に他方の河川への背水(逆流や堰上げ)が生じてしまうので、それで生じる水害を防ぐために、その先まで流れを分けるように建設された堤防のことを言う。なるほどだからその先端が背割堤突端か。

■５■視座を少し拡大して西隣の岐阜県を見ると、木曽川・長良川・揖斐川が集まって伊勢湾に流れ込んでいる。川のスケールも被害も遥かに大きかったこの地にも様々な治水事業が施されている。ここには明治政府が内務省土木局に招いたオランダの土木技師ヨハニス･デ･レーケの大きな功績があったらしい。

■６■江戸時代からこれらの３大河が合流する海津市周辺は、毎年のように水害が発生しては家や畑を押し流し、多くの農民が餓死していたそうだ。このオランダの土木技師は、25年かけて複雑に入り組む３川の分流を果たし、30年間の滞在中の日本各地の治水も含めて、日本治水の恩人と称されているという。

■７■個人的にはそんなことなど全く知らず、海津温泉を訪れてこの泉質はサイコーなどと言って堪能していただけで申し訳ない。さて名古屋に戻ろう。川の周りを歩き回るたびに、この広大な河川敷や堤防や緑地公園などを、自治体が毎年手を抜かずに管理していることに畏敬の念にも似た感謝が湧いてくる。

■８■川辺を歩いていると、歩き易さや美しさにて気付かされる。それは傲慢な支配や改悪ではなく、より住みやすく美しくという個人や団体の想いが感じられる。日本では｢自然か人工か｣の二元だけでなく、人間の活動もまた自然として捉える｢人工もまた自然｣という視座がある。その喫水を今日も歩き行く。

20250322 Saturday