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■１■私たちは眼前で生起する出来事が納得できないと、｢なぜそうなのか？」｢なぜそうなるのか？｣という疑問が自然に湧き、時にはそのままその問いを口にすることもある。｢何故？｣はその物事の因果の流転を知りたい、構造から生起する力学を掴みたいという、知性のあるいは情動の発露顕現なのだろうか。

■２■自らにとって今までの既知に収まらない新鮮な未知に対する興味や好奇心からかの知的発問であることもあろうし、不快や嫌悪に対して無思考なまま拒絶をまとう感嘆符のような言葉であることもあるだろう。答を求めるのは自然の発露？今回は無答もまた１つの重要な答であるという方向の話ではない。

■３■"Why？""Becouse…"の構文が常時成立するという無意識の思い込みがあるのではないか。その思い込み自体をも自問すべきではないか。つまり普段私たちが問いを発する時、自らの目は外の状態や事象に向いているわけだが、そのベクトルを反転させる疑問。『なぜ「なぜ？」なのだろう？』という自問。

■４■問いそのものの中に既に答があるというもの言いとも今回は少し違う。世界には問いを必要としていない答に溢れている。それらの答はただ問われれば即座に目の前に見えてくる。むしろ世界に対して無問だらけの私たちだ。衒学的表現ではなく、既知の中にも未知は溢れているし未知の中の未知もある。

■５■『なぜ「なぜ？」なのだろう？』という問いは、自らの外に向けている目を内側に向ける作用がある。その問いさえ他者に発するのはナンセンスだ。余程信頼のおける者同士の独白同士の会話からなら、創造的な道筋も生まれるかもしれないが、この問いは私たちの知そのものの存在形体への自己言及だ。

■６■話が小難しい方向に傾き過ぎた。中国語の｢何故｣を日本語に訳すと、なにゆゑ､なんぜ､争でか､何とて､いかで…となる。日本語の｢なぜ｣は『万葉集』の｢なにせむに｣からくる。この語には｢何になろうかいや何にも役立たない｣という反語的意味もあった。もちろん今でもそのような意味で使うことがある。

■７■この言葉は｢なにせむに→なんぜんに→なぜんに→なぜに｣と段々変化していき、江戸時代に｢なぜに｣の末尾の｢に｣が外れて｢なぜ｣になり、現在に至るわけだ。この｢なぜ｣と｢なぜなら｣機械的な組み合わせは愚かなのかというと、決してそうではない。むしろそこには信頼と恩寵のような慈愛がなかろうか。

■８■なぜと問う他者に優しく答える日本人なら、自らの内に発する自問に対しても真摯で答えようとするのではなかろうか。そしてそれを独善世界で後生大事に奉るのではなく、再び目を外にも向け、他者と敬意を持ちながらすり合わができるのではないか。いや本当は最初からそうしているのかもしれない。

20250318 Tuesday