■１■名古屋は山地が少なくて本当に平坦だ。歩き回るのに街中もいいが、やはり個人的には川辺を歩くのが好きだ。思い返せばいつも近場に川があった。新潟の南鯖石川、八王子の浅川、吉祥寺は井の頭公園の井の頭池がそもそも神田川の水源だった。横須賀と湘南では川ではなく海がすぐ傍に広がっていた。
■２■名古屋を流れる川として最大なものが庄内川水系だ。岐阜県恵那市の夕立山から流れ出た土岐川は、愛知県に入ると庄内川と名を変えて、名古屋市域の北西部をぐるりと回って名古屋港へ流出する。その流域は市域の約半分に当たる。人の手の入った堀川、新堀川、新川なども庄内川流域に含まれている。
■３■一方日進市米野木町の三ヶ峰付近を水源とし、名古屋市の東南部を流下する天白川は、扇川、大高川、瀬木川その他の支流を含めて天白川水系と呼ばれている。さらに名古屋市千種区猫ヶ洞池に発し、昭和区や瑞穂区を含めた名古屋市中東部を流下して名古屋港に流出する山崎川も河畔歩きに適している。
■４■川辺を歩くと言えば、シンガーソングライターの谷山浩子さんの曲に『河のほとりに』という作品がある。先日その心情を確認しようとして、この曲の歌いだしの歌詞は｢河のほとりに
ふたり座れば…｣なのだけれど、ずっと｢河のほとりにひとり座れば｣と間違えて記憶していたことに40年ぶりに気付いた。
■５■1980年代に漫画家矢野健太郎氏のアシを務めた時期があったのだが、彼は当時から必死に原稿を上げてコンサートに行くほど、谷山浩子さんの熱烈なファンだった。矢野氏のキンが赤い空歩く人(８)なのは知っていたが、先日谷山さんも赤い空歩く人(11)であると知って、個人的には腑に落ちた気がした。
■６■『ドリームスペル』に興味のない人にはどうでも良い勝手な納得の仕方だが、現在でもお２人は交流があるらしく実に心温まる思いがした。それにしてもなぜ<ふたり>の歌詞を<ひとり>に間違えていのかは謎のままだが、今のように川堤や河畔を気持ち良くマイペースで歩くのは、やはりひとりが一番だ。
■７■｢誰も同じ川に２度入ることはできない｣と古代ギリシアのヘラクレイトスは言った。｢ゆく川のながれは絶えずしてしかも本の水にあらず｣は鴨長明による随筆『方丈記』の書き出しだ。前者は万物流転を表現し、後者は諸行無常を詠っている。共にその言明自体も変転するなのなら不変とは何なのか(※)。
(※)実際のところ前者はプラトンが『クラテュロス』の中で、万物流転を表すために１世紀前の哲学者ヘラクレイトスの弁として語ったものだ。また『方丈記』は鴨長明による鎌倉時代の随筆で、『徒然草』(兼好法師)、『枕草子』(清少納言)と共に古典日本三大随筆とされる。
■８■同じ川なのだけれど同じでない。そもそも万物流転や諸行無常という言明自体は変転するのか。矛盾？パラドクス？論理階型が異なるメタな視座からの弁として４値的に捉えられれば、パラドクスですらない。そんな論理的思考すらも流れていく。さて脳内歩行でなく実際の河畔歩行に出発するとしよう。
202500307
Friday
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