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■１■午前２時58分。窓から外を見ると曇があり、今夜は月の見えぬ十六夜を歩くのかと思いつつ外に出たら月はこうこうと光っていた。23度Ｃ曇り。右腰が少し張っている感あり。最近左膝を意識して歩いていたので、少しそちらに無理が行っていたのか。気を付けよう。今日も途中までは昨日と同じコース。

■２■十六夜彷徨い心地良い。僅か１日経っただけなのに、月の位置が高い。仰角が45度以上あってほぼ見上げる感じだな。今回は八事交差点まで行って、そこから初踏の八事街道を西進してみようと思う。八事の地名の由来は岩(や)が凝(こご)る、つまり地盤が固く岩がゴツゴツした山の地という意味らしい。

■３■この界隈は、曲がったり上下したりする道が多いので、直交ばかりの直線道路とは違い(別に嫌いというわけではない)かなり好ましい。また中京大学、南山大学、名城大学、名古屋大学などがキャンパスを構えている文教地区でもあるという。なるほど、だから夜中でも若者がそこここに歩いているのか。

■４■八事交差点の少し前でショートカットしてから、八事街道を西に進む。月が高く輝く大通りの真ん中を我が物顔で歩く。「我が物顔」とは自分の物でないのに、自分の所有物であるかのようにふるまう態度のことだ。「眼中人ひと無なし」とも言う。しかし実際に無視すべき人もいない月明かりの世界だ。

■５■月を眺めながらまろび歩く。足元が滑らかなのは、日本の道路整備の恩恵だ。月を見ているだけで懐かしく有難く喜ばしく麗しい。言語化する前からの生命としての感情なのだろう。日常生活ではなかなか自覚できない情動だ。ひとりよがりの王国の更に奥に目を向けている。月が私を介して自身を見る。

■６■『イクストランへの旅』の中で、カスタネダは師ドン・ファンから「見える限りの土地を全ておまえにやろう」と言われ、過去にスペイン人が新世界を征服し、見える限りの土地の所有権を主張したと的外れな話をする。誰も自分の見ている世界を他者に譲渡はできない。月と闇夜と自分自身のみの世界。

■７■自分の世界であることを誰に主張する必要もない。世界が自分なのだから。午前３時半過ぎの視野視界には十六夜の光景しかない。自分自身の姿すら見えない。突然見覚えのあるところに出た。コメダ珈琲本店のある道だ。ここを下れば石川橋。異なる過去の記憶が歩いた道で繋がる爽快で不思議な感覚。

■８■エンジェル・トランペット越しに１人見上げる月。我を否定し切って到達するところも全世界は我のものと見ても、行きつくところは同じ。地の上をすべるように歩きながら玄関前に帰り着く。静かな喜悦を月に感謝しようと振り仰いだら、既に雲中に隠れてしまってた。改めてご伴歩有難う御座います。

20241019 Saturday