45015

■１■道なき道を最初に歩いたものの後に道ができる。眼前にある道はすべからく先人の通った道筋だ。山道でも遥か昔から幾多の人がそこを通った。沢が崩れれば迂回路ができ、洪水で流されて途絶えれば道はもうない。先人に思いを馳せ、感謝を抱きながら１歩１歩進めるので、人影のない未明の道も良い。

■２■さて昭和区御器所駅だ。昨日は鶴舞線の重なる山王通りを歩いたが、今日はそれに直交する桜通線を今行け方向に歩こう。この道は阿由知通りとも言う。今世紀初頭、るしえる＆甲田烈両氏と愛知県入りして、最初に降り立ったのがこの御器所駅だった。コメダ珈琲に初めて入ったのも阿由知通りだった。

■３■愛知県の愛知という名がソフィアで実にクールだと思ってはいたが、この｢愛知｣は<あゆち>という古い言葉からきているという。語義については、鮎が捕れる淵の意とか、<あゆ>とは湧水の意であるとか、海の彼方から幸を運び来る風のことだとか諸説あるが、古来の郡名<あゆち>からなのは間違いない。

■４■そしてこの<阿由知通り>は名古屋市昭和区中央部に位置し、南は桜山町に北は千種区に接するとある。非常に古くからある｢あゆち群｣は、歴史上拡大したり縮小したりしたが、いつも夜歩きのほぼスタート地点である御器所の辺りでもあり、阿由知通りのあゆちは愛知という県名と重なっているのだった。

■５■元々肥沃な地であり、古代から須恵器や土師器などの焼き物生産が盛んであった…って、いや確かに｢御器所｣という地名もそこから来ているけれど、今日はちょっとだけ神妙に歩き始めてしまった。仏教的な輪廻転生は信じていないけれど、人の歴史を想いつつ歩けば、見えないけれどそれは重なり来る。

■６■尾張国は源頼朝・織田信長・豊臣秀吉という天下人を輩出したけれど、そもそも大和朝廷の初期は尾張国と婚姻など深い関係を持ち、歴史も遥かに深い。それらが有する３値(知･地･血)に染まらず、「なぜ自分は今ここにいるのか」という肩肘を張った自問にも掬われず、自らの体の各部に意識を向ける。

■７■二十歳前に悪友銀川ケースケが、「意識の流れを見続けていて、面白そうなものがあったらそれをひょいっと摘み上げてよりよく見てみる」と言っていた。昼間ならそれも分かる。しかし寝起きの３時台に体の各所に意識を向けながらのそれはちょっと無理。というより、夜歩き時はあまり考えられない。

■８■今池でターンして反対車線側の歩道を歩く。御器所の十字路まで戻って来ると、白黒の猫が相互６車線ある道路の横断歩道をゆっくり歩いて渡っていた。ヒーローインタビューでもするような気分で、驚かせないようスマホ片手に近付いていくと、猫は振り返ってから路地に消えて行った。あゆちの時猫。

20241016 Wednesday