■１■ルネッサンス期のルカ・パチーリョが著した『神聖比率』の挿絵に、レオナルド・ダ・ヴィンチの多面体骨格モデルが多数含まれている。これは内部構造や裏側の形状も見て取れるもので、ペーパーセメントや良質な綿棒やブラックライトもある現代の、綿棒多面体ワールドに通じるところが大いにある。
■２■面で表現された20-12面体と線で表現された20-12面体は同じだが異なる。同じとはその共有するそれぞれの中の幾何学的な形であり、異なるとはその内部まで見えるか表面だけなのか、また個々の見る視座の差異による見え方の違いもある。20-12面体のイメージは不変なのだが、逆に表現法は無限にある。
■３■多面体の要素である幾何学的な<点><線><面>は実は目に見えない。しかし目に見えないとどこにあるのか分からないので、私たちの目の前にあると共通認識されているこの世界の中で、その位置や長さを示すために、ある程度の空間を占有する物で指し示す。指示したものは指示されたもの自体ではない。
■４■紙の上に点を描くにもある程度の面積を要するし、端点の見えないところに線は引けない。世界は個々人にとって、内側から見る端のない球表面だとも表現できる。プラトン立体やアルキメデス立体も同様で、それを示す紙や綿棒の作られた形ではなく、そこに重ねて各々の内にあるそれを見るのである。
■５■私たちの間にあるこの綿棒で作られた正20面体形の上に、私たちはそれぞれ別個に持つ正20面体のイメージを重ねて共有するのだけれど、その過程を毎回いちいち確認し合うのは煩雑だから、取り敢えず相互了承の上で眼前の物質で表わした立体を、ただ正20面体と呼ぼうという協約基底を失念している。
■６■多面体を表現するのに、面でも、線でも、点であろうともそこに優劣や聖俗はない。自得した世界観のみを独善に語る恥愚の時代は誰にでもあり得る。しかしそこに安住することなく、自力で超えて先に進む人間性を失念することなかれ。神聖を騙り偽善の至福に誘うことなく、己れの内なる道を進もう。
20240106
Saturday
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