■１■遥か昔、東京井の頭公園の端で漫画家をやっている頃「全て神となる日まで」という作品を描いた。カミというものについて様々に考えた。このタイトルを呪文のように脳内で唱え続けていた。遥か未来にはそれが実現するだろうというエンディングだった。それはまごうかたなく「今」だと知る自分がいる。
■２■全て神になる日まで。子供のころからずっと「神」という漢字が好きではなかった。大人や社会から与えられる、畏れや感謝を強要させられる外部としてのカミには、ホトケと共にさほど興味がなかった。高慢ちきで不遜なガキだと思われぬよう、大人になるまでその姿勢は秘めていた。全て神になる日まで。
■３■新潟で農業をやっている祖父母の家が、まだ茅葺き屋根だった昔。太い梁に括りつけてある米俵に、祖母が毎朝斜めに切った竹筒を突き刺しては、その日に炊く米を取り出していた。祖母がその米を見せて言った。｢この１粒１粒の中に神様がいるんだよ。｣小学生前の私がそれに対しては神妙に聞いていた記憶。
■４■他者にまで無理強いして共通の概念にしようとする概念そのものの多くはやがて廃れ、遺跡化して形骸のみが残るが、時としてそれは呪物として世界を独歩して人々を苦しめる。良かれという強制普遍化の失敗作が、呪いとなって人心を歪めもする。ポリコレやＬＧＢＴＸ等はもはや祟りある呪いとも言える。
■５■全て神になる日が実現したら、神という言葉が不要になる日でもあるわけだから、同時に全てが神ですらない新しい在りようを見定めて進む必要が生まれ出る。さもなくば１つのループの中で元に戻るだけになる。全て神になる日が今日でない未来だという保証はない。全て神になる日として今日を生きゆく。
■６■<神>という漢字は祭祀を意味する<示>に稲妻が伸びる形の<申>を付した字であり、祭祀及び祭祀対象としての神霊の類を示す。<神祇>とした場合<神>は天の神、<祇>は地の神を意味する。音読みは<シン・ジン>だが、日本では<カミ>と訓じられる。この字はよく意味を知らないままの小学３年生で教えられる。
■７■同音異語の多い現代日本語では、<神>と同音の言葉に<上><髪><紙><守><皇><卿><頭><伯>等多数の字があるが、江戸時代に発見された「上代特殊仮名遣」により、<神>がそれ以外(kami)と別音(kami…トレマ<･･>付きで表記)で発音されていた事が分かっている。アイヌ語のカムイ(kamui)説も存在する。
と同語源
■８■カミとしてカミと噛み合い、交みあい、絡み合い、係り合い、輝き合い、鏡見合い、１つになり、八百万になり、生きる。それは遥か遠い未来になる可能性のあるおとぎ話ではなく、今この瞬間に新しくなる笑い噺なのだということ。そしてそれをネタバラシする愚者は、敢えて未知を楽しむ者の顰蹙を買う。
20231223
Friday
|