■１■1987年頃の事だった。その頃、子供を産んで間もない友人に、出産の時に自分が産む母親なのか、生まれて来る子なのか分からないところにいたという話を聞いた。自分自身は男なので出産とは直接関係がないので、逆にその後勝手にイメージを膨らませて行ったら、何か不思議なビジョンに辿り着いた。
■２■実感のない分、思考や想像を膨らませて行った果てに、行きついた出産そのものの不思議な時空。子を産む母親が、同時に生まれて来る子供でもあるだけでなく、そのまた母親や、さらなる母系の連なりもそこにおり、さらに今生まれる娘がさらに母になって、子供を産む連鎖とも重なる奇妙な位相空間。
■３■そこでは血の繋がりとしての母系の過去の連鎖と、娘として連綿と連なる未来の連鎖が、時系列を超えて重なっている。さらに血縁関係だけでなく、子をなさなくても女の性を有する様々な在りようの者達が、その出産を自らのこととして見守り、出産の成り行きを助け祝い寿いでいる一体不二感の時空。
■４■男としては思考と想像の先にあるイメージをこうして言葉でしか表現できないけれど、恐らく女性の中にはこのような自我や自己としての「私」を超えた「場」の感覚、そしてまた過去の祖先や未来の子孫、さらには他の命を繋ぐ様々な生命とも連なる自覚を味わう経験や、可能性のある人はいると思う。
■５■最近では男女という性差の二元的分別ではなく、それらは重なる部分もあるスペクトル的な様相として捉えられ、また自覚されているけれど、このいわゆる男性性が絶無なイメージの空間の片鱗を、一部の男性は出産後の胎盤を直に見ることや、出産立ち会いなどで、垣間見たり感じたりのかも知れない。
■６■女性１人きりの出産から、自宅で産婆に取り上げてもらうもの、水中出産やイルカに助けてもらう形のものなど様々だが、現代社会の出産では、その多くが病院で医療の助けを仰ぎつつ清潔かつ迅速になされているので、そのような感覚を味わうような体験がないままの女性も少なくないのかも知れない。
■７■最近ではふと、ミトコンドリアＤＮＡの中の夢かと思ったりもする。ミトコンドリアとは真核生物の細胞小器官で、細胞本体の核とは別に独自のＤＮＡを持つ。細胞核とは別に、ミトコンドリアは受精後に父方由来のＤＮＡは消滅してしまって後に残らない。母方のゲノムだけが子孫に受け継がれるのだ。
■８■この特性を生かしてミトコンドリアＤＮＡは、母系を追跡する研究に利用されている。これに対して父系の系統を辿るにはＹ染色体の研究がある。では精神の連結性や、脳から脳へと伝わる文化の単位であるミーム(意伝子)と対応する、男だけの位相空間もあったりするのだろうか…ちょっと引くけれど。
■９■最初の子を産む母親が生まれる子と区別がつかない、いわば「種」としての出産の位相空間に話を戻そう。それに関してはただ妄想を膨らませるよりも、男は、心当たりのある女性にもっと詳しく素直に聞いてみればよいのだ。そしてそんな空間は知らないけれど、ひょっとしてあれが…という女性もだ。
■そしてこのイメージにはなぜかエロい要素が見当たらないのだ。
2018.08.13
Monday
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