#065　いまだ人間として東へ

■東に向けて新幹線に乗っている。新幹線に乗っても最近はいつも津波が来たら線路の周囲はみな呑み込まれるだろうという体感計測をしてしまう。間もなく浜岡原発の近くを通過する。原発という大いなる愚鈍。巨大地震なく停止すべきだ、闇の中の闇に呑み込まれるなと、これまた体感的言明がある。

■個々人が残ったとしても、このままでは東京は終わってしまう。このままでは日本は終わってしまう。緊急時にはカリスマティークな人間が出現する。個人の中にも非常時用の本能的生命力が起動する。それすらも途絶えていたら虚無的消滅に落ち込む。ただ偽のカリスマや偽善キャラには気をつけよう。

■他者と比較することなく、今、個人的に不要なものを考えてみる。散髪・美容、歯科医療、食肉、清涼飲料水系、新しい服飾、冷暖房機器。歩ける、自転車に乗れる、暑さ寒さは耐えられる、装飾的美的センスは今はいい。富士が見える。この思い切り周囲とはパースが狂ったように見える存在感。

■諸状況を無意識下に沈みこませたまま富士山を眺めると、思考とは別のところで、浅い情緒とも別のところから、自然に涙が溢れてくる。あちこちの桜が咲き崩れんばかりに満開で美しい。この情動を否定せず、押し流されずに前に進まねばならない。今はもう少しだけ堪えて、人間として東進しゆこう。

　　　

■個人的になくても大丈夫なものの続き。ＴＶ、新聞、小説。大学やアカデミズム。諸宗教。諸哲学。雑誌、ほとんどの本。多くのの音楽と絵画。そして意を決して言うが、マンガ・アニメ。プロスポーツ全般。車。整体も含めた医療一般。漢方も含めた薬物一般。無くては困る人を非難しているのではない。

■取りあえずもう少しだけは手元にあってほしいもの。数。紙と鉛筆。ノート。電卓。my ＰＣ。自分の言葉。幾何能力。服１着。靴。眼鏡。鞄。それ以外は贅沢品だな。もうすぐ野外でも眠れるし、取りあえず歩くことを始め健康ではある。今後はより見ること、会話すること、書き残すこと。かなり身軽だ。

■実家で母親の納骨を兄弟と検討する。墓は近所でなく富士の麓だから、参加者みんなで温泉宿へというプランはやはり瓦解。最初から練り直すことに。納骨式は現地で兄弟だけででも遂行し、戻って藤沢の江ノ島界隈で報告がてら参加多数で宴会モードを展開するとか。今後は儀式も変化していくだろう。

■冠婚葬祭の煩雑さは簡略化され、必要経費も縮小してしかるべき。最新のマナーや式次第はたかだか100年以内に定格化したものだ。それ以上のスパンの大地震の後でも同様にありたいと言ってもまかり通りはすまい。私だけなら本当に野晒しで十分なのだが。年長者ほど変化がきついとは想像できる。

　　　

■新幹線の中で富士と桜を眺めながら、円周率πについてもいろいろ考えた。πの近似値として古くから用いられていた22／７（＝3.142857143…）と355／113（＝3.14159292…）のπ（＝3.141592654…）との近似具合が後者は特に凄い。なおこれらを構成する整数７、22、113、355だが、円周率のそれぞれ左から７、22、113、355番目の数は全て２である。

■これは偶然ではあろうけれど、証明できないものや論理の見当たらないものを全て偶然に帰するという類の、いわゆる私たち人間の二元的世界分別方法（論理そのものも）の体現であもあると捉えています。元々意味はないのですが、敢えて意味付けするとやはり実に面白い。

■私たちの世界認識の方法が進化するなり相転移するなりして変わり、二元的のみでなく、また用いる数も10進法だけでなくなれば、πの数値も異なったものとして現れ、捉えられるだろう。これは別の進法で表せば当然だが、それだけではないもう少し異なる意味も含んだ表現としてもである。

■なお355は５つのプラトン立体をサイコロとして見立てた時の全ての目の合計数であり、また月の12朔望周期日（−１）であり、かつ13自転・公転周期でもあるあたり、実に深いものをそこに意味づけできる余地がある。今までは単なるオタクな視座ではあるが、今後は半歩先に踏み出した見地になりうるのではと妄想するのも楽しい。

2011.04.12 Tuesday