#045　大地震と大津波のさなかに

■つまらない映画『2012』のＣＧとリアルとの圧倒的で絶対的な差異。それを見る側が差異をさほど感じなくなっているとしたらヤバし。被災した方々には裏心なく哀悼の意を表したい。それにしても陸地に10キロも食い込む津波の画像、マンガのナウシカに出てくる巨大な粘菌の動きはかくありなんという程恐ろしき蠢き具合。

■このような時だからこそ慎重に言葉を慎み、失言などの禍根を残さぬように沈黙をしようとも思ったが、やはりいろいろなところに極力配慮しつつ、おのれの思いを表明することの方が自然であろうと考えた。先ずは各自の生命保持。そしてその後は、親族・友人・知人・周囲の人たちへのひとりよがりを超えた配慮。

■ＴＶのリアルタイムな画像は見逃さぬようにしてきた。夜のうたたね時を別にして。２度目からは最初の衝撃や現実感覚が、人間感覚の時間の経過によるズレや捩れが生じたり、画像を操作されたり利用されたりする機会が増えるから。それにしても炊き出しのおにぎりを真剣に握る人たちの姿には涙が出た。

　　　

■沈みゆく船の上での討議ほど真剣な話し合いはない…と言う。日本は象徴的にもリアルにも沈没はしない。しかし前代未聞の危機であることは間違いない。先ずは裏心なく真剣に善後策を検討し、迅速に適材適所の行動をすべきであろう。そこではやはり中枢を成す人間の質と品格が問われる。頑張り時ぞ、現閣僚。

■今もこれからもまだ大変な状況下にある人々の少しなりと苦痛の減少することを祈りつつ、身辺のことも書き記そう。先ず新聞。記事がブチ抜きのタイトルで報道しているのはさもありなん。しかしＴＶ欄の多くが縦にブチ抜きに今回の特別報道のニュース枠に当てている白さもまた、空前絶後ではなかろうか。

■壊滅的な光景を晒している、かつて多くの人が生活している場だったところに、情け容赦なく吹雪が舞う画像の壮絶さ。その向こうには実際に人間がいて、大変な思いをしているだけでなく、身を切る寒さにも晒されているということを、身体感覚でも想起し、おのれの心の重みを持って想像すること。

　　　

■それがどこでどう繋がって届いたり作用したりするのか、また全然しないのか、そんなことが分からなくても、直接何もできない時に人間として心の中に湧き上がる「祈る」という行為は、決して単なる独りよがりや自らの心の平安のためだけではないはずである、と強く望み、真剣に考える。

■ＴＶ画像に出てくる様々な人たちも、このような時だからその人の度量や本質が垣間見える。御用学者の能面のような顔が、耐えきれず悲しみを感じる人間の顔に崩れていくところ。ほとんど寝ていないのにキャスターとしてベストの報道を心がけている面ざし。新米アナのリアリティに上ずったリポート。

■私は頑固で極端な「未顕の和製リバータリアン」だから、税金ゼロ、外交その他最低限のこと以外ほとんどしない最小の国家しか認めないつもりだけれど、非常時の自衛隊・消防・警察・その他のライフライン保持管理関係者も頼もしい。官・公問わず、利害対立を超えて動ける日本人としての在りようを高く評価したい。

　　　

■東日本が乗っている北米プレートの下に太平洋プレートが潜り込もうとする摩擦とその解放が生んだ大亀裂が今回の大地震と津波の震源だという表現を考えるとしても、震源が点ではなく線（断面も考えたら面）であり、その長さは4〜500kmもあるのだから、地球周長の１／100が裂けたということだ。

■人間存在そのものの反転をあれこれ考え続けている人も、現在の人間としての在りようを十分楽しもうとしている人も、いまだ人間であるならば、人間としての痛みや諦念、希望や祈りを正直に表明してもいいのではなかろうか。雄弁でも沈黙でもなく真心こそが「金」なのではないのか。

■これは明らかに無責任な妄言なのだが、米国もロシアも韓国も中国も様々な国に裏心なく援助・協力してもらうのもいいのではないか。邪悪な政治学的力学が混入しても、絶望的ではないと信じつつ。日本が全体を統括する。感謝の表れとして後日日本で平和会議を開き、新しい世界の在りようを模索するのだ。

　　　

■妄想になりつつあるようだから、一服みしよう。脳内思考励起と感性心情増幅の時として、深く深くおのれの在りようのパラメータに用いて、自分自身の在りようを再確認する絶好の機会でもなかろうか。祈りは忘れることなく。無常感や無力感を超えて…。それにしてもおのれの未熟さがマジ突き刺さる。

■自分が運が良いと思えること自体がすでに運が良い。これは同語重複を超えて１つの真実だが、今回のように圧倒的な自然の猛威の中で様々な災害の渦中にいる人たちを見て、エゴでなくても自分が本当に幸運だと思うだけでは、やはり常に至福感の中でまどろんでいるだけでは人間としてまだ欠陥者だ。

■私はマスコミ的なＴＶは決して好きではない。しかしその中でも人は泣き、人は助け合い、励まし合っている。愚問に近い問いに対して思わず泣き崩れる人に対して、こちらも全身を通して痺れるように共感する感覚を、単なる幻覚とか安易な同情だとは思わない。頑張れ！と心の中で叫ぶ自分がいる。

　　　

■東北や北関東にも多数の友人知人がいる。被災しなかった国内の者だけでなく、海外からも日本を見詰めている。そのまなざしは様々あるだろうが、思いも寄らない優しさや慈しみに満ちた祈りも感じられる。被災した人もしなかった者も、自己陶酔からでなく日本人として誇りを持って生き様を示そう。

■ほぽ丸１日以上ＴＶ画面をあちこち眺め続けたあと、気を失うように落ちていたことに気付いて、気を取り直して本を読もうとしたけれど、一向に難しい文章を読むことができない。もちろん視覚情報が全てではないが、見たものをおのれの中でまとめ直して、伝えられない部分に想像をふくらます。

■被災２日目の夜に、無慈悲なまでの雪が舞う。まだ真っ最中である。様々な人間の悲しみや希望に共感する時、私は悲しみや希望そのものである。

2011.03.12 Saturday