＜お城訪問シリーズ（１）犬山城＞

　最初は木曽川べりにある犬山温泉に入るつもりでこの地を訪れた。犬山温泉は１９９６年に湧出したばかりの新人温泉である。しかし名古屋などの都市から近いために強気なのか、ここの温泉宿は宿泊料金が軒並み高い。それはまあしようがないとしても、問題は日帰り入浴も食事付きで４０００円５０００円というコースしかないということだ。ただ入浴だけしたい貧乏な温泉フリークには近寄りがたい設定に不快感が残ったため、入浴せずに犬山城に向かうことにした。

　犬山城はかつて第１回とらしえの東海道行ったり来たり編で、安城から各務原へ移動の最中に、山のてっぺんにちいさな城があるなあとわずかに意識していたものだったが、この城だけが唯一個人（成瀬家）の所有物であるとは当時は知る由もなかった。しかも現存する日本最古の３層４階の天守閣であるそうだ。ここから眺める木曽川をまたいだ各務原側の眺望は素晴らしい。

　まだ観て間のない宮崎アニメ映画「千と千尋の神隠し」に出てきた、温泉旅館「油屋」の縁側から海を見るシーンを彷彿とさせるような、眼下の木曽川の美しい水面。ころりとすぐに人が落ちてしまいそうな、ひくい手すり。そして３階にある出窓風の部屋が心地よい空間を作っている。なんの権利もありはしないけれど、最初の感じは「あ、このお城、欲しい」という子供のような感想だった。

　城自体が美しいという城は、日本にも少なからずあるが、城の中からの眺望が良いという城を今後も訪れてみようと決心した。かくしていつのまにか、私の中には「温泉シリーズ」のみならず、「お城シリーズ」と「河川シリーズ」も生まれ始めていた。どれもこれも、かなり行き当たりばったりばったりで他者の参考にはあまりならないだろうが、ひとりよがりの王国通信としては決して無意味なものではないだろう。

とらしえじゃぱん点線記３−１３（番外編）

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