＜砂丘の赤月、深夜の月蝕＞

　さて夕刻も迫り、今日の宿泊をお願いしてあった浜松の謎の市会議員・きんちゃんこと小松錦司氏と、落ち合う約束だったが、車におけるすれ違いドラマを幾度か演じてしまった。ようやく劇的に邂逅するやいなや、彼に台風の近づいている日本３大砂丘のひとつ中田島砂丘に連れて行かれる。そこできんちゃんは車の中からおもむろにインドの打楽器や太鼓や笛を引きずり出し、サンダルと海水パンツまで用意してくれて、海辺に向かうことになった。

　市会議員としての顔は全くなく、ラジニーシのところのサニヤシンのまんまの顔（？）を前面に押しだしている。私は台風で荒れる２メートルほどの高波が面白くて、夕闇の降る遠浅の砂上で波頭との追いかけっこを飽きることなく続けた。海に向かって左上の空（東側？）には茫洋として丸い赤月が雲間から顔を出す。焚き火の木を集めるための熊手を持って、浜辺を走り回っているきんちゃんは、るしえる兄ぃによってキング・ネプチューンと命名される（キング・ネプチューンは、ミカエル宅の水を使ったものすごい音のする掃除機の名前でもある）。そのるしえる兄ぃもまた、渚で体が自然に動くに任せるような謎の踊りを続け、このような体のワークもありなんだなあと感慨深げに語るのであった。

　無人の海に向かってひと騒ぎした後は、店で素材を買い込んで、きんちゃんの事務所へ。高台になっている建物の横にシートを敷き、バーベキューパーティーを始めることになる。ちょうど右上に月を眺めつつの見事なロケーションだ。しかし火を熾す役を志願した私は、その熱さにＴシャツすら着ていられず、気絶しそうになりながら裸で火熾しに勤しんだのであった。私はまったくもって熱さに弱い。ご近所の杉村さんも参加して、朧月になったり雲間に隠れたりしながら様々な顔を見せてくれる月を楽しむ。途中でｌｕｌｕちゃんも駆けつけてくれ、るしえる兄ぃはオーバーワークで体がほとんど動かない状態ながら、それでも食うときはとりあえず食う。

　私が携帯に掛かって来た電話に出て長話をしていると、外から「まろちゃん、月蝕だよ、月蝕！」というるしえる兄ぃの声がする。外に出てみるとさっきまでほぼ満月だった月の上側が欠けてきている。忘れていたが、そういえば今日は確かに月蝕の日だった。再びバーベキューの残り物を食べ、月を愛でつつ夜は更けていくのであった。その夜はゆったりした畳の広い部屋があるきんちゃんの事務所で眠る。毎日お仕事、毎日移動、毎日ビール、毎日爆睡の日々も、今夜でとりあえずのピアリオッドだ。お疲れ「とらしえ」。

とらしえじゃぱん点線記１−２６（２００１０７０５−３）