知られたものは、知る人の在り方に応じて知ることの中にある。――スコラ哲学
 ちょっとした超能力に憧れる人がいる。まだ見ぬ奇跡を願望する人がいる。世の中の尋常でないところに引かれる人たちがいる。しかしちょっと待ってほしい。スプーンを一方的に破壊するだけのサイキックや、軍事戦略や犯罪捜査に利用されてしまうテレパシーや予知能力なぞつまらないものだ。それよりも自分の体が思い通りに動くということの方が、どれだけ奇跡的なことか考えたことがあるだろうか？相手の表情を見てどんな気持ちでいるのか察して、すぐに何かをしてあげられることの方が、どれだけ素晴らしい超能力か想像できるだろうか。
そんなの当たり前のこと…だろうか？空気があって、日の光が射していて、ものが見えて、音が聞こえて、香りを味わえて、笑ったり歌ったりできて、あまつさえ怒ったり泣いたりすらできてしまうということの奇跡。地球に大量の水が存在することも、絶妙の調和によってこの肉体が存在していることも、阿吽の呼吸で意志の交換や感情の呼応ができることも、本当にすべて当たり前のことなのだろうか。
この地球に肉体を持って生まれ、生命と物質に触れることのできる不思議。ここで今人間として存在し、言葉を交わすことの幸せ。共に数を数え、空間を共有できることの幸せ。陽光の慈愛を浴びて、重力の恩寵の中で、時の輪の祝福を生きる幸せ……。それでももっと飛び切りの超能力、もっととてつもない奇跡を望むのだろうか。キーワードは感謝。信頼。慈しみ。
はっきりいって半端なチャネラーやヒーラーやえせシャーマンはごまんといる。でも本物にはとてつもない負荷が掛かるということを知っているだろうか。世界に対して感謝の気持ちがなければ加速度的に気が狂うし、生命を信頼していなければ孤独で地獄に陥るし、人々に対して慈しみがなければ何もする気が起きてこない。それでも尋常でない能力をゲットするにはどうしたらいいのだろうと考え続ける人もいるだろう。しかしこの世界はどうもただ自分が元々そうなのだと気づけばよいという構造になってるらしい。
未来につながる温かい数（１）
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