 自分が見ているように他の人も見ているとは限らない。自分の耳の中で鳴っている主観倍音は他者とは共有できない個人的なものだ。自分に見えないものや聞こえないものが存在するのだろうか。自分の手足は思い通りに動くのに、物質や他人の体はなぜ自分の思い通りに動かないのだろう。ましてや他人の気持ちや想像もつかない動きをする。自分と自分以外には決定的な違いがあるのだろうか。
思い通りに言葉は口をついて出るが、その言葉が他者に思い通りに伝わるとはらない。ましてやそのつたない表現を自分の思い通りに受け取ってくれてしかるべきだと考える限のは、一方的な甘えに過ぎない。それにしてもなぜ自分の思いは自動的に言葉になるのだろう。そして言葉にならないこの想いとは一体なんだろう。
ひとりよがりの王国の国境線に気づくと、もうそれを無視して生活するのは退行であり、偽りの生き方となる。しかしその代換案はまだない。どうすればいいのだろう。答は誰も与えられない。与えられたものは答ではない。しかしヒントは山積している。すべてがヒントになる。
１つきりの世界観に囚われていて、それに縛られていていることにすら気づいていなかったと気づいたならば、少なくとも２つ以上の複数の世界観を自在に用いることが重要だと考えるだろう。それはもちろん自分の都合に合わせて用いるダブル・スタンダードとは全然違う立体的世界観だ。ひとりよがりの王国とは一意で個人的精神も含めた肉体的限界でもある。
自分の身体をないがしろにしつつ生きることは、全てを台無しにする。ひとりよがりの王国をも大切に扱おう。反転してやがてそこに戻る。そのときそこはすでにかつてのひとりよがりの王国ではなくなっているのだ。
ひとりよがりの王国を超えて(１５)
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