 この星の現在の空間認識の原形は、遥か超太古に地球に降り立った地図製作者によって確定された。この地図製作者は、彼の世界からはずっと下位であるこの地球の３次元空間をどれだけ正確に地図化できるかという問題に執着していた。球面をいかに平面にトレースするか？この個人の認識する３次元世界という球面内部の表面地図化問題を、彼は地球表面をいかに球面外部の情報を地図化するかという問題に置き換え、肉体という最高次元をまったくの裏側から３次元にリンクさせることにした。
そして自らも水を内部空間に包み込めるスペーススーツ（宇宙服〜空間服）をまとい、地球生命体として地上に降り立った。単位当たりどれだけの情報を詰め込めるかが、この３次元においてのより「正確な地図」としての問題であった。地図製作者はまず１／１００００のものを作った。そして順次その縮尺比率を詰めていき、最終的に１／１、つまり原寸大の地図を製作する事にした。すべての情報が等大の３次元空間に移植されている地図だ。そしてそれは完成した。
地球生命体としての時間という幻想の経過の中で、その地図製作者はそれでももの足りず、ついに原寸より大きな地図を製作する事に腐心し始めた。しかし銀河連邦の多次元地図製作局は、彼がすでに３次元に長く逗留し過ぎたことにより、精神に異常を来していると見て取った。そしてその地図製作者を強制帰還させるとともに、製作中の４００／１の地図を回収削除した。その地図は例えば月と地球の間の距離情報を表現するのに、地球と太陽の間の距離空間を必要としていた。３次元でのみ、その情報は折りたためないのである。
そして地球には回収されない原寸大の地図が残された。３次元の世界をいかに見るかという問題は、地球在住の人間たちにとっての永き懸案だったが、この原寸大の地図をもって世界とすることで解決した。そしてそれが普遍化した。原寸大の地図とは知覚認識されたものそのものである。人間はこの５千年以上の永きに渡って、地図が世界そのものであるという世界観以前の「世界そのもの」を失念している。近今ようやくその呪縛から自力で逃れ始めるものが出てきた。私は彼らの自助努力を信頼したい。全く新しいものを創出できるかもしれないのだ。その時重力の呪縛は、祝福に変わるだろう。
星の記録003（次元幾何学者の航行記録）
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