 この星では「おのれが愛しい」という真理から世界を見る。人をないがしろにしておのれを愛しむユニットを「愚者」と呼び、おのれが愛しいから人をも愛しむ者を「賢者」と呼ぶ。賢者は「反転」を知る。おのれを殺して人を愛しむことはできない。そのような妄想の方向を幾何学者は「逆反転」と呼ぶ。
この星にも天国と地獄がある。美しいナビゲーターが地獄を見せてくれた。この星の食堂らしい。山海の珍味が卓上に並び、極楽の賑わいである。この星の食事は２本の棒を用いて、消化器系の入り口に運ぶ。この平行２直線の交差場に力の集積点を置き、意志力によって稼働する食事専用の機器をこの星の人はただ単に「箸」と呼ぶ。
「ここは地獄ではなく極楽なのではないですか？」と問おうとして、人々の挙動が尋常でないことに気がついた。皆の持つ箸が異様に長いのだ。長すぎる箸でご馳走をつかんで、どうにか自分の口に入れようとしてもなかなかうまくいかない。みんなはだんだんいらいらしてきて、ののしったり喧嘩をしたり意気消沈したりし始めた。この状況は無限に続くように思われた。
次にナビゲーターは泡状移動装置を操作して、天国に次元移動すると言った。やはりそこは食堂であった。山積みの食べ物が並ぶ長いテーブルに、人びとはやはり長い箸を持って着席していた。「ここも地獄ではないのですか？」と問おうとして、先ほどと人びとの挙動が違っているのに気がついた。長い橋でご馳走をつかんでいるところまでは同じなのだが、みんな笑顔と共に他人の口にそれを運んでいるのだ。みな上機嫌で歌い踊りながら、建設的な意見の交換をしている。この状況は無限に続くように思われた。
ナビーゲーターが言う。「この星の名前をご存じですか？」「何というのですか？」「地球です。」この星では「おのれが愛しい」という真理から世界を見る。
星の記録001（次元幾何学者の航行記録）
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