19871103-1
「私」と言う時 その「私」と言われる者は既に「私」ではなく「彼」だ。
「君」と言う時 その「君」と言われた者は既に「君」ではなく「私」だ。
私を「私」と言う前の『私』、
言う者と言われる者が末分来意識の「それ」こそがまさに『私』だ。
「それ」こそが本当の『私』だ。
意味を成す前の「それ」、意識される前の「それ」、文字に表される前の「それ」、
その事を知った後それを「私」と言うのは
その事を知る前「彼」を「私」と言うのと別の事だ。
知った後は「彼」は「私」でありかつ「それ」であり得る。
ただし「それ」は何時でもするりと逃げ出しやすいが。
かっての真実の言葉は
「○年○月○日○時○分○秒、私は全身全霊を持ってあなたを愛していた。」
「今、他ならぬこの今の瞬間、彼女はこの上もなく美しい！」の如くだったが
今はその時間の微分的限定のかせを外してこう言える。
「私はあなたを愛している。」
「彼女はこの上なく美しい!」
しかもなお、愛していないとも美しくないとも言えるのだ。
又あなたを他の一切物と代えて言明する事もできるのだ。
「それ」である私とは今のこの瞬間に比せられる。
「彼」である私とは過去に比せられる。
「君」である私とは未来に比せられる
そして三世はこの今に収まり
二つの人称は『私』に含まれる
それは又こうとも言える。
「今はなく私もない。今がすべてであり、すべてが私なのだから
」
意味する処を解するなかれ。
意味を超えたものを観るべし、識るべし、覚するべし。
吉祥寺百景（０７８）19871103
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