19870531-1 いかに個人的に真理を極めようとも、それを他者に正確に表現できない者は孤独である。またいかに１人きりの時に心が安定していても、他者との交流の中で浮わついたり、心が乱れたりするのであれば、何のための安定であるのか？自己内の真理値と共通の真理とを混同し、他者には意味を成さない情報を一方的に垂れ流すのも愚の骨頂である。しからばいかなるコミュニケーションを？
まずは１人の時の安定感と真理値を対人時にも保つよう努めること。自我を超えて意識的である事。
19870531-2 かってＩ氏は寝る前にシェリー酒をちびりちびりと嘗めるのが好きだと言っていた。はたして彼はシェリー酒が好きなのか、シェリー酒をたしなむ習慣が好きなのか、それともシェリー酒をたしなむ習慣を持とうとしている自分が好きなのだろうか？
19870531-3 ｢彼」は公園の池の西側の、水に映る緑色が好きだ。公園管理局側が水底の汚泥除去の大工事をしたので、水際の緑が水に溶け込むように染まっている。しかしその事を人に伝えようとする時、｢彼」は池が好きな事を伝えようとしているのか、池が好きな｢彼」自身を伝えようとしているのか？どちらが主かによってコミュニケーションは少し異なってくる。この公園の与える好感の公約数的普遍性はかなり高いと思うが、できればそれが好きな自分を伝えるのではなく、自分の印象というフィルターを極力介さずに、この公園の池そのものについて語りたいものだ。もっとも何も言わずに共に水際に立つことができれば、それに越したことはないのだが。
19870531-4 本物と偽物。丸井の横で子供がすれ違いごしに「お母さんは偽物が嫌いなんだよね。」と言っていた。偽物とは何だろう。CopyはCopyとして本物である。擬態の昆虫はみな偽物となるのだろうか？全ての物はアーキタイプのcopyであるから偽物であると言うのか？Copy
to Copyによる複写では、孫Copyにとって子Copyは本物ではないのか？このメタファーでいけば、人類は皆元の人類のCopyではないのか？偽物とは本物と言われる物及びそれを評価する者との関係性において、初めて論じられる。本物の偽物について、偽物の本物について。それらは好き嫌いを超えて存在する。
19870531-5 現実よりも現実味のある夢を見た。それは映画のシーンの様だった。彼は観客なのだが、しかもその場にいた。その世界は通常よりもしっとりとしていて臨場感があるのだ。空気が滑らかに温かかった。霧雨が静かに降っていた。
吉祥寺百景（０６８）19870531
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