(19861028-1) 天国の門の前の釈尊 釈迦は仏の国、天国の門に最初に辿り者いた。天の声が釈迦にさあ入りたまえと言う。すると彼は答えた。私は人間の頭である。頭が天に者いても体はまだ扉を通っていない。足の先までみんな通り抜けたのを見届けてから私は最後にこの門をくぐろう。総ての人々がパラダイムシフトを終え、そのまま仏を示現するまで自分は人間の中にいようと言ったのだ。｢彼」はこの単なる作り話かもしれない物語に痛く感動した。｢彼」の何かを強く共鳴させるものがある。常不軽菩薩もまた｢彼」を感動させて止まない。
街に本を買いに行こうと家を出た。冬の空に雲ひとつなく霞んでいる。昼の光は温かい。枯れ木立ちの中は垂直方同のカ線が温かい。公園で２人のアメリカ人に声をかけられた。モルモン教徒だった。｢彼」は何等こだわりなく応じられた。宗教者は狂信と見られるあのドグマ性が全面に出ない限り、優しくそして好ましい。「モルモン経」という厚い本を一冊もらう。が、先入観も気後れもなく、好意と自信の振動を持って受け応えしていた｢彼」の声の響き。まるで少し上から見聞きしている他人のようにそれが自覚できた。｢彼」はいかなる宗教者とも語り合えるだろう。そしていかなる人とでも。冬木立ちの足下は枯れ葉の薄い層。冬雀が茂みの中を跳回る、その乾いた音。 吉祥寺百景（０３８）19861028 |
(19861028-2) 冬木立ちの中で