(19861107)
美しい裸の少女の死体が一体、その幻想世界の中にある。惑星探査員ＡとＢ。Ａはその美しさをためつすがめつした後、貴重なサンプルとして、その軽い少女の死体を持っていこうと担ぐ。美しい顔、１３〜４と思われる体つき、生きているとしか思えぬような肌のつや、性器のあるべきところに何もない事実。(彼女たちは卵生であると後に分かったりする。)
やがで岩場のあちこちに２〜３体ずつまとめて美少女の死体が散在する地に入る。希少価値がなくなったとＢがＡに言う。Ａ、とにかく初めて出会った記念的価値はあると言ってまだ担いでいる。死体は無臭で腐りもせず、やがて彼らはその裸の死体が散在する風景になじんでいる自分に気づく。
そのうち丘の上の見晴らしのいい所に辿り着く。そこから行く手の平原を見下ろすと、一面少女の死体の海。ここにいたってＡは担いできた死体を捨てる。二人はさらに奥に進まねばならず、少女たちの死体を踏みつけて前進する。歩きにくいので疲れる。平原の真ん中で腰をおろして休む２人。地平線の果てまで四方八方美少女の死体で埋め尽くされているのを見て、これも風景と言うのだろうかと言うＢ。
死体を掘っても地面は出てこず、空だけが唯一の可視的自然。１人きりならとうに頭がおかしくなっているところだ。いやとうにもう２人ともおかしくなっているのかもしれない。この星は単性生殖であり、しかも死に易いのでマンボウのように卵をたくさん産み、それがみな孵る。美しいのが特徴。これに似た風景を見たことがあるとＢ。図書館の古い写真集の中で、確かアウシュビッツとかいうタイトルがついていた。もっともあれはもっと泥まみれだったけれど。
やがて夜。２人はキャンプを張り、眠ろうとする。俺は女に縁がなかったとＢはＡに言う。死体とはいえこれだけの裸の少女に囲まれて眠るなんて想像もしなかった。誰だってそうだとＡ。まあこれが全部男だったり婆さんだったりしないだけ儲けもんだ。２人向き合う。確かなことはこれが悪趣味で病的な夢に過ぎない世界だってことだ。ただはっきりしないのは誰の夢かってことだ。君のか？２人は宇宙服を着ている。何か重要な任務があり、それを実行するために目的地に向かっているのだが、よく思い出せない。Ａがつぶやく。いつか目覚めるさ、夢は。いつか目覚めるに決まっているさ、もし夢ならば。
吉祥寺百景（０３１）19861107
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