 ヴィトゲンシュタインの｢世界」を超えるものは、常に未来からやってくる。｢世界」に今だ到達しない未知なるもの。それを「想像できぬもの」と名付けたとしても、それが出現するまでは意味がなく、そして出会ってしまえば無用になる観念の悪あがきに過ぎない。
「ひとりよがりの王国」では、その安定した統治が追求される。それは全き対称性への希求に極似している。しかし全方向にある国境領域から、未知は常に訪れている。王国はそれらと和合して豊かに広がり行く。他国を侵略することもなく。鎖国主義は未来を拒否する。未知による統治方向の変化を見とめない。しかし黒船は来る。理性の視界の目の端をＵＦＯはかすめ通る。
未知は必ずしも、まだ生起せぬ未来からやってくるとは限らない。隣町の少年の悪戯の巡り巡る余波や、隣人の口に出さない優しい思いやりの結果や、自らの内にあるまだ意識されない恋心が突然露見することもある。常にこの今に打ち寄せる未知。忘却して久しい大昔の知のかけらが、何万年も血の中にたゆたった後に、くつろいだ心の前に顕現することもあるだろうし、今後生起するであろう出来事の光速を越えた全方向への放射ビームが、静かに朝の目覚め時に意識を横切ることがあるかも知れない。
未知を肯定しよう。未知を信頼しよう。それはこの今、あらゆる方向からやってくる光、あらゆる時からやってくる情報、全ての想い。もちろん見ぬまま盲目的に肯定するのではなく、見聞き知覚することのすべてが新しく、今までになかったものだと明確に意識して、正対しつつ受容しするのだ。全ての光を、全ての想いを。未知は内からも外からもやってくる。
そしてこの今の思考も想いもうつつも夢も、ただ絶望の虚空に消えていくのではなく、いつか到達するであろうという希望と祈りを込めて、私にとっての全ての未知に向けて放つことができるのだ。頑迷な不可知論にも軽薄な嘲笑主義にも犯されることなく、５年後１０年後のまだ見ぬあなたに、まだ見ぬ私に、未だ見ぬ愛すべき全てに向けて。このようなあまりにも間の抜けた、自らの姿勢と立ち位置を大声で笑い飛ばしながら。
非人非人日記（２４）20010112
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