 大学生だった頃、電車に乗って京都まで６０円、福岡までも６０円で行ったことがある。無賃乗車ではないが不正乗車には違いないのだが、理論的にはどこまでも６０円で行けたのだ。まだ国鉄といっていたＪＲの初乗り料金は、当時３０円だった。もちろん現在のように自動改札はなく、駅員さんが切符を１枚１枚入鋏し、また出る時は改札で切符を回収していた。
夏休みだった。手順はこうだ。まずは初乗り料金で切符を買って電車に乗り、鈍行列車を乗り継いで目的地まで行く。下車駅で共犯の友人と待ち合わせるのだが、自動券売機で入場券を余計に買っておいてもらう。そしてその未使用の入場券を、友人の切符の入鋏形を真似てカッターで切り、それを出して改札を通過するのである。
最初は「長老」という仇名の友人と京都貧乏旅行だった。東京発の夜行に乗り換えて翌朝大垣着。鈍行列車を乗り継いで、京都駅まで辿り着いたらもう昼過ぎだった。小心者の私は車中ずっと、いきなり指をさされて大声で、「オマエただ乗りだろう！」と言われはしまいかとドキドキしっぱなしだった。入場券に不釣合いな大荷物をしょっていたから、やましさ０パーセントの顔をしながら全力ダッシュ１００メートル。かくして確信犯の不正乗車は成功したのである。
当時の論理はこうだ。「私が電車に乗ろうが乗るまいが電車は動いている。なら私が乗ってさらに有効利用してあげよう。」他者もみんなその論理を採用したら、電車は動かないことを知っていながらの、ひとりよがりと無責任を青い冒険心とすり替えた論理だった。しかも共犯させた友人の入場料金すら払わぬまま、さすがに帰りは疲れきって新幹線で帰京した。
非人非人日記（１９）20001205replaced
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