 高校生の頃、大好きだった女の子と喫茶店に入ると、幼なじみの友人がそこで働いていた。彼とは小学生の頃はずっと一緒に遊んでいたのに、中学後半からは顔を合わせなくなったままだった。彼は突然の再会を喜んで、とても話をしたがっていた。「懐かしいね」とか「彼女かわいいね」などと言っては、会話の繋ぎ目を求めていた。「うん…。ああ…。」と生返事しかしなかった。彼は私が恋愛感情の中でいっぱいいっぱいなのを察して奥に引っ込んだ。私は自分の前のテーブル周辺しか見えていなかった。それ以降、彼とは一度も会っていない。
大学生の時のある夜、ふとその時のことを思い出した。あの時なぜ一言でもちゃんと応じなかったのだろう。なぜ自分が今女の子の前で余裕がないと言う余裕すらなかったのだろう。迷惑そうに無視した自分の態度を思い返して、深い自己嫌悪に陥った。彼の生い立ちや、共に遊んだ日々を想起して、その取り返しのつかなさに胸が掴み取られ、握りつぶされんばかりに苦しくなった。
そしてその後も、あの「いやー、懐かしいなあ」と言った彼の純粋な声の響きと、嬉しそうな顔一杯の表情を思い出すたびに、彼に対するあの時の態度への悔いは、私の心の中で繰り返し反響しては増幅した。日常生活の中では私もそれを忘れて過ごしていた。しかふと1人きりの深夜に目が冴えると思いだし、その記憶と悔いを増幅していくのだった。
もはやあの店に入る前や、店を出た後の記憶はない。彼女とどんな話をして、その後どうなったのかすらも覚えていない。平凡な日常生活の繰り返しの中で、彼に対する悔いの気持ちすらも擦り切れて消えかかる。あの時すでに彼は決して反感を持つこともなく、女の子のことで今は夢中なんだろうと解釈して、そっとしておいてくれたに違いない。その彼ですら、とうに忘れて久しい仔細な出来事に違いない…と理性的に自らに言い聞かせ、治る前にかさぶたをはがし続けるような、過去への循環を断ち切ろうとしていた。しかし記憶はよみがえる。
非・人非人日記(１５)20001129replaced
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