 「背に腹は代えられない。」これは１個人の身体に関する表現だ。本来の意味はさておくとして、文字面の意味は、１個人の背は同一人物の腹と代えることはできないということだ。決して他人間での臓器交換や、生命種全体に関する遺伝子組換えの問題ではない。さて再帰的に考えると意外なことに気づくことがある。
「背を向ける。」これは通常他者を無視したり、関係性を断とうとすることだ。しかし人は己れ自身の総体に背を向けることはできない。ましてや自身の肉体としての背そのものに対して背を向けるという行動は物理的・生物的にも不可能だ。日本昔話の中にある、大きすぎる自分の頭の上にある水たまりで泳ぐ者のようにパラドキシカルだ。
自己言及のパラドクスと自己愛とは似ている。自己超越と自己信頼は似ている。ひとりよがりの王国の中では、全てが自己言及であり、自己愛に満ちている。私も含めて、まだ「二度生まれ」していないこの世の多くの人たちは、なぜここにいるのかをあえて失念することでここにいる。悲哀や苦悩すらも味わい尽くすために、想起の鍵のありかをどこにも記さずに。（多分その鍵は「美」の中にあるような気がするけれど。）
ひとりよがりの王国は、大いなる子宮だ。ひとりひとりがみな、それぞれの地球を持っている。それらはみな各人のオーダーメイドで、決して重なり合いはしないまま。この３次元的に見える世界はワームホールの中にあり、私たちはみなそれぞれ孤独に産道を通過中だ。ひとりごとを言い、ひとりずもうに泣き笑いしながら。
その大いなる「二度生まれ｣中の自分に対して、目をそらし背を向けることはお手のものの私たちだが、自分自身の現在の小さな背を、二度生まれした後の腹に変えることは、決してパラドクスとしてではなくできるに違いない。ベクトルの総体を反転する方向を見出しさえすれば。
非・人非人日記(１２)20001123
|
