 体験は身体に生傷を作りもするが、心という非物質的な場にも切り傷や引っかき傷を作る。生命の自然治癒力は、それを放っておいてもある程度は再生する力を有している。しかし回復の最中に無意識の内に傷口のうずきやかゆみから、そこをいじくりまわして、繰り返しかさぶたをはがしてしまうことがある。心の中の言葉の残響や視覚の残像は、それを考えまいとするほど追体験してしまう。触れずにおこうとする気持ちが、傷口の記憶を強化する。
考えまいとしても、その意識自体がすでに意識しているのだから、人はその痛みをマヒさせるためにアルコールや薬物に頼ったり、無気力無感動になって自己防衛してしまう。しかし異なるベクトルの抜け方もある。その傷口を意識して、そこにこびりつく悪しき記憶の意味を意識的に変えることだ。まといつくネガティブさを、未来へと続くエネルギーへと反転・変容させるのだ。もちろん意識をそうしようと持っていくこと自体がたやすくない大手術だ。
悔いで眠れない夜。怒りで人を呪わずには正常を保てない心。取り返しのつかない失敗、叶わなかった夢。時間の流れの中ではやり直しのきかない生き様の残した記憶のループ。それをさらに悪化させるかもしれない変化を試みるよりは、まだかさぶたができてはまたはがすループの方が楽かもしれない。しかし過去に引っ張られ、色づけされ続ける生き様は未来を制限し続ける。ただ笑い、食べ、眠り、歌うことにすら、新たに体験する前から色あいや通奏低音を用意してしまう。
怒り、悲しみ、後悔、喪失感。それをネガティブだと思わず、自然な反応だと思おう。そしてその反応だけが自分の全てではないかどうか、自己チェックしよう。後悔しているのであれば、それを繰り返さないための高い代償として捉えよう。それだけの代償をはらってもまた繰り返すのであれば、その体験は無意味になってしまう。相手を許し、自分をそう。まとわりつく過去の想念を成仏・浄化させよう。恐れることはない、それらはみんな過去の亡霊なのだ。傷を傷として愛してしまえたら…。
今この瞬間の意識が全てを変え始められるという確信があればこそ…。全てを「変えうる」ではない。変えられたとしてもそれだけではまた、ずるずると元の状態へとあとずさりしてしまう。「変え始められる」という認識に意味がある。少なくとも「変えうる」という真実はすでに前提であり、現実としては変革もまた継続する努力なしには、だんだん傾きゆく斜面の上に立つようなものだ。古い継続から、新しい持続へと。
20001112sun with full moon,KIN208,yellow
cosmic star
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