 時間と空間では方向認識が反転（いや正確には混乱というべきか）しているということを、明確に自覚してみたい。現在の日本語においてはというべきだろうが、日本語という別次元のものがあるのではなく、それは我々の意識と重なっており、また意識そのものとも言えるので、我々の混乱といっても良いだろう。
個人にとって空間的な前と後ろは自明である。顔または目の向いている方が「前」面であり、背後が「後」方だ。ところが時間的には以前・以後とか言うように、物事の原因や過去の方が「前」で、結果や将来の方を「後」と言う。別個にはそれでもいいが、時間と空間を１つにして、さあ前を見よという時、顔は空間的に前方を向くけれど、時間的には過去を向く。過去への退行現象とは時間的に前に戻ることで、後ろ向き人生でありつつ今後の将来にひっぱられることではない。
つまり空間的にポジティブネガティブの２元論的評価をすれば、前向きと後ろ向きというように前がポジティブ、後ろがネガティブだ。しかし時間的には前向きにとは未来志向でポジティブ、後ろ向きとはネガティブになる。「前向きに前世を考える」とか「青春の後姿」と言ったとき、これが通常の意味とは別にパラドキシカルな響きを持つとしたら、それは言語空間（少なくとも日本語の）の中のきしみ音でもある。しかし実のところ、そのような混乱は現実的には皆無である。
空間の反転と時間の反転とは混在してはならぬ問題が内包している。空間の属性としての時間、もしくはその逆を問題にするときは、空間的反転のメタファーだけで時間的反転を語るだけでなく、何か明確な翻訳論理がひつようとなってくるのではないだろうか。空間と時間のこの方向指示の混在と混乱意識のなさは、１０進法と１２進法（もしくは５と６）の混用に疑問を抱かぬままさしたる混乱もなく生活できる人間のしたたかさを見る思いがする。
人は前に進むようにできていると言うが、生物学的に言えば感覚器官の集まっている方向を前と言うのだ。だから空間的に前方を見つめ、そちらに進むのは自然である。同様に時間の流れる未来という方向も、単に１つの生物学的に固定した自然に過ぎないのかも知れない。
20001109thu,KIN205,red
planetary serpent
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