（００１３）精神的面食い同好会の勧め

　普段からだらしないと、顔つきがとてもだらしなくなる。これは目的を持ち、強き意志で未来へ向かう時の力積が顔に魅力を刻み込むのと逆の現象だ。それは一見して見て取れる。だらしなさを装うものと、本質的にだらしない者との違いは、ある期間見ていればやはり分かってしまう。自意識と意志とは違う。そして意志にも狂信的思い込みと知的未来展望のちがいがあるが、意志は顔を未来に向けて引き締める。

　弛緩の時間は誰にでもある。年中緊張していると、やがて精神に異常をきたす。バランス。年中弛緩しているものは、そのほとんどがだらしなく、世間が思い通りにならないと嘆きつつ、自ら能動的に周囲に関与しない。ほんの一握りの悟りし者以外は。しかし不悟者は悟者を語れないので、一部の例外については今は捨て置こう。

　「精神的面食い」とは、容姿の美しさを好むただの「面食い」の嗜好性とは一線を画す。また精神の美しさを好むとはいえ、目に見えないものだけを好むのではない。美しき精神は美しい容貌を作る。その造作を物理的に変えゆくのは整形手術だが、メタフィジカルに自らの均整を整えゆくものの美しさは「精神的面食い」のターゲットになる。その美しさは声や立ち居振舞いと共に、その面に顕現する。

　いつも優しく微笑んでいる穏やかな女性がいた。彼女にはすでに３歳の娘がいて、母子家庭の補助金で日本のあちこちを旅していた。どうしてそのようにいつもにこやかなのかと問うと、「おまえは器量が良くないから、いつもにこにこと微笑んでいなさい」と親から言われたという。そのアドバイスが良いか悪いかは別として、その知性を潜めたやわらかな表情の基底通音が意識的に形成されたのは間違いない。

　もちろんただの面食いが誰もが認める美しさの者を好むとは限らないように、精神的美性の基準が万民共通のものとは限らない。よって精神的面食いの者が、精神的面食いの者を好むとは限らない。1人で精神的面食いを提唱しても変態かオタクか変人扱いされる可能性がある。精神的面食い同好会のようなものの中でその美的感覚を磨ぎあうのは意義があるだろう。求む精神的面食い。

20001103fri,KIN199,blue self-exesting storm