（０１９５）表現とはパラドキシカルな道標である

19880325-1　新たな目で見直す事

　「見直す」とは「新たな目で見る」という事であり、それ故「初めて見る」という事である。この意味では「見る」と「見直す」とが同等であり、比較する事自体ナンセンスなのだ。「見る」と「見られる」の二元的解釈を使って言えば、見る者の目、即ち見る者が刻一刻新生しているという事であり、見られる者は不変であり、かつこれまた一瞬一瞬新生しているとも言える。それは「見」「被見」の立場を逆転して見れば自明だ。双方とも―瞬たりとも同じもので有り続けぬと言うのに、それでもなおかつ同じものだと認識できるという事実から、この二元的解釈自体を超えた存在が自明となる。一瞬たりとも同一の状態を見せず、かつ同一の存在であると認識できるという事は、少なくとも一つ上の階型の認識形態もしくは存在形態が在ると想定・解釈できる。二者は同一事の異なった把握の仕方である。

19880325-2　超えて行けり

　GATE GATE PARAGATEWY…という字句に心動かされる時、その表現された物にではなくそのように表現した者の意識状態、思い・感じ・考え・観たであろう世界にこそ今「彼」は共感を覚えるのだ。そしてまさにその表現をも超えて行くのだ。 あらゆる聖句も題日も表現である。表現とはパラドキシカルな道標である。道標は道を示すものだ。それをしょって先に進む者は愚かである。又そこに立ち止まって道標を拝み続けるのも道標自体の存在意義に矛盾する行為である。ただ道標をそこに置いた者に感謝し、ここまで来れた白分に感謝し、徒手空挙で先に進もう。

吉祥寺百景（０９６）19880325