（B007）

■１■太陽年は１太陽回帰年365日を１年とする｡そして太陰太陽暦は12朔望周
期の354もしくは355日を１年とする。前者の閏年は366日であり､後者の閏年は
太陽年との差11日を３年ごとに１ヶ月入れて13ヶ月とするために383または384
日だ｡まずは自然生活に基づいた暦から始めて､順次代表的な暦を見ていこう。

■２■アイヌの暦は年初がグレゴリオ暦の３月頃で、北海道の風土と狩猟・採
取を示す叙事詩的な自然生活が月名に入っている。後戻りの月という閏月など
太陰太陽暦の要素もある。年初が春分近くで月名に１対の意味があるなどと良
く似ているので、北米の先住民族イロクォイ族の暦も、合わせて紹介しよう。

　　　　　　　《アイヌの暦とイロクォイ族の暦》

　　　　　　 ＜アイヌの暦＞ 　　　　　　　　　　　 　＜イロクォイ族の暦＞
　　　　　　１の月 日がそこから長くなる月（祝い月） 　太陽が再び大きくなる月
　　　　　　２の月 鳥が出て鳴く月 　　　　　　　　　　木の葉が水に落ちる月
　　　　　　３の月 ひめいずいを取り始める月 　　　　　木の葉がまったく水に沈む月
　　　　　　４の月 ひめいずいを盛んに取る月 　　　　　草木が芽生える月
　　　　　　５の月 はまなすを取り始める月　　　　　　 果実が実り始める月
　　　　　　６の月 はまなすを盛んに取る月 　　　　　　草木が伸びる月
　　　　　　７の月 木の葉の初めて落ちる月 　　　　　　草木の豊かに伸びる月
　　　　　　８の月 木の葉の盛んに落ちる月(鮭のくる月) 刈り入れが始まる月
　　　　　　９の月 足の裏が冷たくなる月 　　　　　　　刈り入れが終わる月
　　　　　　10の月 たいまつで魚を捕る月 　　　　　　　寒さが再びくる月
　　　　　　11の月 弓が折れるほど狩りをする月　 　　　非常に寒くなる月
　　　　　　12の月 海が凍る月 　　　　　　　　　　　　太陽が再びやってくる月

　　　　　　　　《イスラム暦》

■３■西暦622年を紀元とし､354日からなる19の平年と355日からなる11の閏年
との30年を周期とする､純粋で精緻な太陰暦である｡１年は奇数月が30日の代の
月と偶数月の29日の小の月がらなっている。この朔望月の数値は正確で､30864
太陰月または2572太陰年(＝2400太陽年)での誤差がわずかに１日に過ぎない。

■４■しかし太陽年とは毎年11日ずつのずれがあるので、33年でちょうど１年
のずれが生じる。したがってイスラム教徒の33歳は私たちの32歳であり、66歳
が64歳、99歳が96歳となる。最近はイスラム圏でもグレゴリオ暦採用の国も少
なくないが､それでも金曜日は休日で､宗教行事はイスラム暦に準拠している。

　　　　　１月 ムハッラム(30日)２月 サーファール(29日)３月 ラビア１　(30日)
　　　　　４月 ラビア２ (29日）５月 ジョマダ１ (30日）６月 ジョマダ２(29日)
　　　　　７月 ラジャブ (30日) ８月 シャーバン　(29日)９月 ラマダン （30日）
　　　　　10月 シャウワル(29日)11月 ドゥルカーダ(30日)12月 ドゥルヘジア(29日／閏年30日)

　　　　　　　《バビロニア暦、ユダヤ暦、ギリシア暦》

■５■バビロニア暦の１ヶ月は新月から次の新月までで､年初は春分の日だ｡19
年間に７回閏月を置く太陰太陽暦で、統一後は月名も一本化された。ユダヤ暦
は幾度も改良を重ねられ､年初は1250年以来９月頃となった｡閏月は19年間の３
,６,８,11,14,17,19年目に、アダル月の次に30日のアダル２として挿入する。

■６■ユダヤ暦は１年の日数が通常年には353､354､355日のどれか､そして閏年
には383､384､385日のどれかという６通りである。紀元前3761年が元年であり､
休日は土曜日だ。ギリシア暦の１日は日没から始まり、１ヶ月は新月から始ま
る太陰太陽暦であったが､都市国家ごとに年初も月名も異なって不統一だった｡

　　　　　＜バビロニア暦＞
　　　　　　　１月 ニサンヌ ２月 アイアル ３月 シマヌ 　 　４月 ドウズ
　　　　　　　５月 アブ 　　６月 ウルル 　７月 タシュリトウ８月 アラハサムナ
　　　　　　　９月 キスリム 10月 テバトウ 11月 シャバトウ 12月 アッダル

　　　　　＜ユダヤ暦＞
　　　　　１月ティシュリ(30日）２月ヘシュウァン(30日or29日) ３月キスレウ (30日)
　　　　　４月 テベト　 (29日) ５月シェバト　　(30日) 　　　６月フダル　 (30日)
　　　　　７月 ニサン　 (30日) ８月イッヤル　　(29日) 　　　９月シウアン (30日)
　　　　　10月 タンムズ (29日) 11月 アブ 　　　(30日) 　　　12月エルル　 (29日)

　　　　　　　《ヒンドゥー暦と中国の暦》

■７■紀元前1500年頃の｢リグベーダ｣によれば、ヒンドゥー暦は30日が12カ月
の360日で､５年毎に閏月を入れて調整していた。また28の星宿により毎月の太
陽の位置が示され、１ヶ月は月の満ち欠けで２分されていた。１年は冬・夏・
雨の３季をさらに２分して全部で６季としていたが、地方でまちまちだった。

■９■中国の暦は、殷王朝の遺跡から発見された甲骨文字で記された殷暦によ
れば､当時の１年は毎月が30日からなる12ヶ月で､時々13番目の月を入れて季節
を合わせていた。年初は冬至の次の日で、各月は上旬・中旬・下旬に分かれて
いた。また十干で日々を数え、これに十二支を加えて六十干支を用いていた。

■10■周の頃はメトン法と同様に19年７閏法を用いて暦を調節していた。戦国
時代には１年を365日と１／４とする暦を使っていたが､メトン周期の４倍の76
年を周期とするカリポス法と同様の操作で太陰暦と太陽暦を調節していた。中
国では2000年間に47回暦法変更が行われ、必ずしも進歩ばかりではなかった。

■11■それでも東アジアなどの近隣諸国には広範な中国暦使用地帯を形成する
ことになった。なおメトン周期やカリポス周期のほかにも、幾何学的な音階理
論であるピュタゴラス音階と三分損益法などのように、ギリシアと中国でほぼ
同時期に発見・発明されたものが多数存在する｡非常に興味ある出来事である｡

　　　　　　　《エジプト暦とその他の太陽暦》

■12■エジプトの古い時代は太陰暦だったが、やがてナイルの増水時期とシリ
ウスのヘリオリカル・ライジングが重なることに気づき、これに合わせて夏至
を新年とした。以降３年毎に１ヶ月の閏年を設けていたが、紀元前2900年頃に
１ヶ月を30日､年頭に祭日５日を加えて１年365日のシリウス暦を使い始めた。

■13■エジプトの太陽暦は太陽回帰年を１年とする暦法で、季節とのずれはな
いが月の朔望周期とはまったく無関係である。もっともこれは正確に言えは恒
星暦だが、結果的に太陽暦と重なっている。シリウスの１回転は実際の１年よ
り約１／４日短いので４年間で１日、1460年でまるまる１年のずれが生じる。

　　　　　　　１月トト 　　２月ファオフィ 　３月ハテュル　　 ４月コイアク
　　　　　　　５月テュビ 　６月メケイル 　　７月ファメノト 　８月ファルムティ
　　　　　　　９月パコン 　10月パウニ 　　　11月エペイフ 　　12月メソレ　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（各月30日） 付加日５日

■14■エチオピア暦は古代エジプト暦とほぼ同じで、各月30日の12ヶ月と５日
の余日からなる。年初は９月11〜12日頃である。またインドの拝火教徒が用い
ているパーシ暦も同型のものだが､年初は８月26日である｡ユリウス暦は紀元前
49年､ユリウス・カエサルがエジプトの１年365と１／４日に改革したものだ。

■15■このユリウス暦は実際の１年より11分14秒ほど長かった。これがどんど
ん積算していき、実質と合わなくなっていったので、結局1582年にグレゴリオ
13世が最終的に現行のグレゴリオ暦を公布することになった。ほかにも多数の
暦が存在するが、自分にあった暦を用いて能動的に生きることが重要である。