イルカやクジラに限らず、人間が人間だと考えているもの以外の存在、もしくは存在を想定しているものとの間のコミュニケーションを成そうとする努力は多方面において試みられている。象、チンパンジー、犬猫などはまだしも、神や天使や悪魔や妖精や宇宙人とのコミュニケーションも、真剣にもまた興味本位にも取りざたされている。この際出血大サービスとして、宇宙人や異次元人、霊的存在や未来人、自分の胎児や御先祖様、細胞やＤＮＡや細菌やウィルスたち、太陽や月や海山や樹木相手のコミュニケーションの試みも異種間コミュニケーションとしてまとめて面倒見てみよう。その質の善し悪しや混乱の度合いは多々あるだろうが、基本的にそれまでの認識を超えるものとの対話を求めていることは共通している。そしてそのほとんどが目先だけは変わっているがパターン自体は相似形をしている。ネイティヴな呪術霊がアトランティスの学者の次元を超えたテレパシーに、妖精の呟きがアンドロメダからのメッセージに、という具合にだ。

　もちろん私は神秘主義やそのような現象自体を否定しているわけでは決してない。むしろそのスタンディングポジションは、科学的思考や論理的世界観よりは近しいと考えている。しかしその混乱した異種間コミュニケーションが真の神秘主義者の叡智や本物の科学者の努力をなし崩しにするのであれば、困惑の表明くらいはしておかねばならないだろう。猫も杓子も犬もしゃもじも世界を救う方法はこれだと本を書いてしまい、かえって本屋の本棚から望みの本を探すのに難儀してしまうのが現状だ。その人に合った本がシンクロニシティでその人の元に来るものだ、などという判断停止の楽天的言明は現実の混乱を増すばかり。…いや、それすらも意味があるかもしれない。少しクールダウンして、この未知なるものとのコミュニケーションの試みについて見てみよう。

　ある意味で未知なるものとのコミュニケーションの試みは、パラドクスの真中に飛び込むことに似ている。パラドクスの解をその人なりに掴んで戻ってくる。そしてその解が誰にも効く万能薬だとは思わないが、とりあえず参考までにと提示してくれる。これはありがたいことだ。しかしミイラ取りがミイラに…ではなく、パラドクスバスターがパラドクス中毒になってしまい、そのコミュニケーションの相手なしには生きていけなくなるという自家中毒症状を起こしてしまうとしたら。しかもごていねいにその毒をばらまいてしまうケースが少なくないのである。そこには思いやりと信頼という温かい流れがあれば良いのだが、コミュニケーション自体が不安定になった場合、それは病的様相を提示してしまう。エゴの増大。他者に対するコントロール願望。

　チャネリングという言葉がある。それは決して超常現象ではない。えてしてダウンロードの内容を吟味しないままところかまわず撒き散らす。もちろん未知とのコミュニケーションにおいて獲得されたメッセージは予想外のものであり、未知なる内容に満ちているだろう。知ってることばかりでは意味がない。しかしそれだからこそ極力理解しようと努める必要があるだろう。チャネリングにチャネラーの良心がなかったらどうなるか。自分が無意識状態だから、言動に責任を持てないというのはひどすぎる。少なくともそれなりの相棒なりチェック機関なりを獲得する必要がある。もちろんそれを金もうけにするプロデューサー／マネージャーと組むのはもっての他だが。自分は心神喪失状態になったら人を刺すかも知れないけれど、それは私のせいではないからと公言して町中を徘徊するのに似ている。実際真実の言葉は人を刺す。真実か否か分からない言葉は、人を癒す力を持つと共に人を傷つける力も持つことを忘れてはならない。

　様々なケースをあまりにもいっしょくたにしすぎている、と思うかもしれない。しかしここに最も重要な問いがある。「様々な異種間コミュニケーションにおいてあなたが出会っているものは何か。自分自身と、自分にとってメタな存在との関係は何か？自分自身とはそもそも何なのか。なぜ他ならぬ自分がそれとコミュニケートできるのか。何を私に気づかせようとしているのか。」１つの確かなる答。「出会っているもの…それはあなた自身である。」それがイルカならば、あなたはイルカなのだ。それが先祖霊だと主張するなら、先祖霊もあなたなのだ。神だとのたまうならば、あなたは神なのだ。あくまでも第１番目の優先順位はあなたなのだ。自己依存症の克服のためにとった、メタな自己依存症という戦略。

　シンプルな構図過ぎるが、この自分の意識を３次元的だと見做し、メタな意識を４次元的と表現しよう。通常のメタローグは、通常のダイアローグの上で成される。たとえ当人同士がそれに気づいていないとしても。それを意識しつつ会話を進めれば、おそらくもっと実り多いコミュニケーションがなされるだろう。そして自分の中での内的対話を、最もタイトなメタローグと考えて良いだろう。自己言及的、メビウスの輪的、正４面体的、スピン１／２のスピノール的なメタローグ。最も異種なるものとのコミュニケーションとは、自分自身とのメタローグなのだ。世界とは私。世界とは脳みそを介して反転した私自身。そこからさらにその世界を１歩超えて「イン・ラケチ」…私はもう１人のあなた自身です、としてのコミュニケーションへ。