■１■光の刺激を電気信号に変換する視細胞は網膜にある。視細胞には悍体細胞と錐体細胞の２種類がある。悍体と錐体いう名前は喰い付きにくいが、英語ではrodとconeだと知れば形状がイメージできる。捍体は光に鋭敏で繊細な明暗も識別するが色は識別できない。色を識別する人間の錐体は３種類存在する。

■２■悍体細胞内には明暗を感じる視物質ロドプシンがあり、光に鋭敏でわずか一個の光量子にも反応する。また人間の錐体細胞内にはそれぞれ赤・青・緑の色を感じる赤受容物質・青受容物質・緑受容物質があり、このヨードプシンとも呼ばれる３種の錐体視物質でフルカラーを認識しているのである。

■３■人間はロドプシンと３種のヨードプシンを合わせて、全部で４種類の視物質を持っているのだが、実は地上の生物には現在のところ５種類の視物質が確認されている。赤・青・緑色を感じる受容物質のほかにもう１つ、人間が失ってしまった「紫色を感じる紫受容物質」というものが存在するのだ。

　　　

■４■原始脊椎動物は紫を含めた５種の視物質を全て持っていた。多くの魚類・鳥類・爬虫類は現在でもこの５種の視物質を失っていない。同じ意識平面には立てないので、実際にどう見えているかは確認できないが、意外にもこれらの生物は人間よりもはるかに豊かな色覚空間にいると考えられている。

■５■アカデミックな定説では５億年前には昼行性だった類人猿と人間は、６千５百万年前までの爬虫類全盛時代に夜行性の生活していたので、その間に紫と緑の視物質を失ってしまったらしい。再び昼行性の時代になってから緑の視物質を回復したので、現在は赤・青・緑３種の視物質を持っている。

■６■聖徳太子も冠位十二階の最高位を紫としたように、日本では古来より紫色が高貴な色だった。紫色の染料がアクキ貝2000個から１ｇしか抽出できないので大変高価だったのは確かで、ローマでも中国でも珍重されていた。紫受容物質の喪失とその集合的記憶の関連として想像するのもロマンがある。

　　　

■７■この紫受容物質は永久に失われてしまったわけではなく、１度喪失した緑受容物質を再度獲得したように、今後人間が進化変容していく過程で取り戻したり、新しいバージョンの紫視物質を創出したりしないとも限らない。もちろんこれは単なる物質的世界観の上で妄想しているわけではない。

■８■第３の目という霊的な視覚の痕跡は誰にも残っているとか、修行によって獲得できるなどという話がある。これをイコール紫受容物質が集中した特別な器官だったとか、眠っている第４のヨードプシンを顕現させることだ等という短絡的な結びつけではなく、むしろ集合的記憶と捉えるのも面白い。

■９■オーラを視ることができると言う人もいる。これを共感覚として捉える研究もある。可視光線帯域をはみ出した電磁波領域を倍音的な協和振動で拾い、何らかのフーリエ変換的操作を経て可視光線に重ねて捉えているのかも知れない。４種の錐体で見る４原色世界というものもかなりの異能世界であろう。

　　　

■10■太陽光のスペクトルを分解すると、その多くは可視光線であることが分かる。太陽光の多くを占める帯域だったからこそ、人間がこの領域の光で世界を捉えているのは偶然ではない。太陽が先にあって後から人間が進化したのではなく、同時に出現したのだとする荒唐無稽な世界観までもあと半歩…。

2010.02.10 Wednesday