■１■今夏は家の中に夜の風が抜けるように窓と玄関のドアを少しずつ開け放していたのだが、当家の猫２匹がいつしか早朝の４時45分にやってくる新聞配達の人と、ドアの隙間越しに挨拶を交わすようになっていた。最近では頭を撫でられていたりもする。私もいつしかそれを物陰から聞くために早起きに。

■２■しかし必ずしも毎日ではない。猫の気まぐれで直前にぷいっと玄関から奥の方に戻ってしまうこともあれば、台風の後などで配達が遅れてしまうこともある。たかだかその数秒の邂逅のために、私もいつしか早々に目を覚まし、猫が気まぐれに立ち去らぬようあれこれ気をもむ立ち回り役になっている。

■３■新聞休刊日が猫に分かるはずもなく、定時を過ぎてもやってこない配達員さんに遅いぞコールを唱えるかのように大声で鳴くこともあれば、台風が吹き込まぬようドアを締め切ることもあった。寝ていても４時過ぎにむくりと起き上がり、玄関でスタンバる猫の不思議。つられて起きる自分も不思議。

　　　

■４■昨日の午前５時前にわかったのは、日曜日の新聞はいつものおじさんと違う人が配達しているらしいということ。猫２匹がいつものように玄関ドアの隙間にスタンバッていたのだが、新聞がスコンと新聞受けに入れられた後、配達人は何も言わずすぐに立ち去って行った。猫たちはただポカンとしていた。

■５■いつもより少し早い今朝の午前４時43分、新聞配達人が到着。玄関前のエレベーターがガーッと開く。猫たちがぐぐっとドアの隙間に身を乗り出す。新聞が入る。微妙な間。そして配達員さん、何も言わぬまま階段を下りていった。えーっ、挨拶なし？な、なんで？猫たちのあれ？という雰囲気が分かる。

■６■見えない位置で私が毎朝ちゃんと猫と挨拶してくれるか息を潜めて聞いているのを知られてしまったのだろうか。一昨日、愚妻がぜひ自分も見たいと直前までドタバタしていたので気づかれちゃった？それともネット書き込みから何らかのルートで分かっちゃった？はたまた配達員さんが代わっちゃった？

　　　

■７■未だ残暑が厳しいので風通しを確保すべく、玄関のドアを少し開けているが、寒くなったら閉めなくてはならないから、猫と配達員さんとのと未明の邂逅が途絶えてしまうのは残念と思っていたけれど、意外な方向に話は展開し始めているのか？猫も戸惑うが、私も戸惑う９月中旬の終わり…。

■８■せっかく毎朝早くに起きているのに、二度寝ばかりしているのももったいないと思い、顔を洗って町に出た。さすがに御器所でも６時にオープンしている店は少ない。しかたなくマグドナルドに入る。個人的味覚嗜好もあるが、どうにも不味くて頂けない。ハッシュポテトの歯触り以外は場所代という感じ。

■９■例えば猫缶とか猫フードには一応総合栄養食と言う名目で、個人的にはなかなか与えがたいものまで入っていたりするので一概に全否定はできないが、やはり大量生産されたものやオートマチックな過程で出てくる加工食品や料理は、自分が調理した食事と決定的に次元が異なっているといつも感じている。

　　　

■10■自分だけ安全なものだけを確保して食べ、怪しさの残る加工食品などを一切食べないという潔癖症もまた、ある意味病気だと考える。いつもただ眼前の安いものを食するだけなのも食欲という病気だが、時には意識的に毒と知りつつ飲食する気概と生命力も必要だろう。毒と薬の差は紙一重。放射能すらも。

■11■だが店内で食べ終わった後、トレイ上に残った紙コップや紙ナプキンや台紙、プラスチックのフタやマドラーや包み紙などを見て、何と無駄に大量のごみを出すシステムだろうと思う。ここしかやっていないから入ったのだが、マックが大好きでいつも食べている人の感覚が残念ながらどうにも分からない。

■12■店の中でパソコンを開き、店に対する不快感を綴るのだから、格好良く言えば獅子身中の虫だな。一寸の虫にも五分の魂。いや、世界に蔓延する様々な不快なものに対して文句を言うのに、自分だけ世界の外からものを言うのはたやすく軽い。事象の界面で私は大声で叫ぶ。猫が好きーっ！…って、あれ？

　　　

■13■それとなく朝の空気を味わいつつ自宅に戻る。何となくいつもより町に人が少ない気がする。愚妻がｉフォンでネットアクセスして、この猫々朝日記読んでいたらしく、「今朝の配達人さんってさー」と言う。「今日も休日だから別の人なんじゃない？」「…えっ、今日って何の日？」「敬老の日。」

■14■かくして新聞配達人と猫たちとの朝の挨拶交換が今後も続くのか否かの真相は明朝に持ち越しということにあいなったのである。