#104　自分自身によっても生かされている

■死ぬこと自体は怖くない。死ぬのではないかという恐怖が自らを錯乱させ、苦しむのではないかという不安の方が自らを虐げる。言葉に恐怖し、観念に踊らされ過ぎるのはよくはない。ある程度まではこの世界を楽しむためのものだが、それを忘れたままでは本意は失念したままである。

■「おまえはもう死んでいる」というケンシロウの名台詞を反転させてみよう。この世に生まれた時が死んだ時であり、一生は死んでいる期間であり、死ぬ時が生への端境期であると想定したらどうか。ただ言葉の意味を逆にしただけととるか、その言葉を用いる者の立ち位置自体をひっくり返すかの差。

■つまりこの世界もしくは人生そのものを反転したものとしても見ようとする時、その反転した世界の中での諸相を見直してみるのではなく、反転しようとした最初の発想に立ち戻ってどちらとも判じ得ると捉えられた時、それは一意的な言葉や分別のロジックを超えてその構文自体を俯瞰できる。

■「死ぬ」とは言葉であり、「苦痛」も言葉である。痛みそのものに対しては、言葉で癒すのではなく、言葉を動かす元のところで対処した方が早い。その時、自分自身が世界や他者によってのみではなく、自分自身によっても生かされているということを、生死を超えて実感できればしめたものである。

2011.06.14 Tuesday